14.17-28 極秘プロジェクト?28
「……ところで、だ」
「はい?」
老人ウエンツが、何か気になるものでもあったのか、マグネアへと問いかけた。
「あれは……あの子らは、何をしているのだ?」
「あれ……」
マグネアは、ウエンツの視線を追いかけた。ワルツも一緒に追いかける。するとそこでは——、
「へぇ……この植物、魔力を込めると成長するんだね」
「ということは、施設内にたくさん生えている植物は、ルシア様がこの施設を作った際に、一部の魔力を吸い取って成長したのではなくって?」
「本当ですね。植物を育成する魔法じゃなくて、ただの魔力でも成長するようです」
「皆、器用なのじゃ……」
『魔法が使えるって、良いですねぇ』
——と言ったように、ルシアたちが、月に生えていた謎の植物を使って、色々と遊n——実験していたようである。エリア3-1の展望室の床を魔法で粉々に壊し、砂状にしたところに月の植物を突き刺す……。それはまるで畑のようで、傍から見ていると、月の植物を栽培しているかのようだった。
その様子を、マグネアが一言で説明する
「……土いじりですね」
「土いじりか……」
マグネアとウエンツの間に、妙な空気が漂った。双方とも無言で、ジッと少女たちの土いじり(?)を眺めるだけ。そんな2人は同じ事を考えていたようだ。……本当にあの行動を土いじりと言っていいのだろうか、と。
一方、ワルツは、少しだけ心配していたようである。
「(ウイルスや細菌の類いは検出できなかったけど、でも、正体不明の植物を触るっていうのは、ちょっと怖いのよね……)」
ここは月。惑星アニア上ではないのである。未知の病原体が存在しないとは言い切れず、また、月の植物の生態もまったくの不明なのである。それを考えれば、ルシアたちの土いじりには反対だった。何が起こるか分からないからだ。
しかし、暇を持て余したルシアたちの好奇心を止められず……。何より、ワルツ自身が月の植物に興味があったので、ワルツは妹たちの行動を容認することにしたらしい。最悪の場合、ポテンティアのマイクロマシンがいるので、細菌やウイルスの類いがいたとしても、彼に排除してもらえば問題は無い……。ワルツはそんな楽観的なことを考えたようである。
一方、ウエンツは、自分の目で見た景色を受け入れられなかったのか、遠い目をしていたようである。繰り返すようだが、ルシアたちの行動は、遠目に見れば土いじりでしかない。しかし、その"土"、あるいは砂と言えるものがどこからやってきたのか、あるいはどうやって作り出したのかを思い出すと、気が遠くなってしまったようだ。……そう、彼はその"土"作りの光景を、狸寝入りをしたまま目撃していたからだ。
方法は単純明快。ルシアが力技で、魔法を地面に打ち込んで作り上げたのである。到底、畑を耕すとは思えないような方法だったが、実際、リノリウムのような見た目の硬い床は、粉々になって砂のようになっていたのである。まさに、非常識。ウエンツとマグネアが言葉を失うのも仕方がないと言えるだろう。
2人が黙り込んでしばらくが経過し、再びウエンツが口を開く。ただ、そんな彼の表情には、直前までの困惑や苦々しさは無く——
「……くっくっく!」
——なぜか笑みが浮かんでいた。
「(なにこのお爺ちゃん。壊れちゃったの?)」
どこかの悪役が浮かべそうな怪しい笑みを見せるウエンツを前に、ワルツがかわいそうなものでも見るような視線を彼へと送り、そしてマグネアも怪訝そうな表情を浮かべていると……。ひとしきり笑ったウエンツは、深呼吸と共に「ふぅ」という溜息のようなものを吐き出して、こんなことを言い出した。
「なるほど。ここは非常識が跋扈する世界か。マグネアの言うとおり、面白そうな世界だ」
どうやら、ウエンツは、ルシアたちの非常識な行動や、月面研究所という非常識な研究施設を受け入れることにしたらしい。むしろ、考えるのをやめた、と言うべきか。それこそが、非常識を受け入れる唯一の方法だと悟ったようだ。




