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14.17-26 極秘プロジェクト?26

「それにしても、皆、起きないわねぇ……。身体に異常も無いし、脳波に異常も無かったから、すぐに起きると思ったんだけど……」


「のう……は……?」


「えっと……独り言だから、気にしないで」


 ルシアたちの鬼ごっこが終わり、今度は大きな魔力を使わないかるた遊びに変わっても、未だ、編入生たちが目を覚ます様子はなかった。彼らの脳波を確認する限りでは、浅い夢を見ているような状態なので、肩を揺すればすぐにでも目を覚ますくらいの浅い夢を見ている状態のはだったず。しかし、実際には、ワルツの予想とは異なり、編入生たちは中々目を覚まさなかったのである。


 身体に問題が無いのなら、いったい何が問題だというのか……。もしも魔力が問題だとすれば、自分にはお手上げだ、などと考えながら、ワルツは編入生たちの顔を覗き込んだ。


「うん?皆、口から泡を……いえ、涎を垂らしながら眠っているようね。もしかすると、元々疲れていて、身体が休息を求めていたのかも知れないわね……」


「疲れ、ですか……。ふむ……」


 ワルツの推測を聞いたマグネアは、編入生たちに声を掛けた当時のことを思い出していた。


「(確かに、皆さん、声を掛けたことにとても喜んでくれて、二つ返事で遠い場所から転移魔法で駆けつけてくれたり、すべてのスケジュールをキャンセルしてきてくれたり……。年甲斐もなく、燥いでいましたね……)」


 全員が、声を掛けてから半日も経たない内に揃い、次の日からは編入生として特別教室の授業に参加し始めたのである。そんな彼らは、本来であれば多忙な研究者。しかし、そう思わせない彼らの軽いフットワークに、マグネアは内心で驚くほどだった。


 それが昨日の夜の話。今のマグネアは、すこし後悔していた。彼女自身、ワルツたちの技術力や魔力を見誤っていて、予想もしない速度で話が進んでいくとは思っていなかったのである。声を掛けた編入生たち——もとい研究者たちが、ワルツたちの非常識に振り回されることも、完全な予想外。月面研究所が出来るとしても、おそらく、数年先ほどの話だろう……。そう思っていたものが、まさか、昨日の今日で、ほぼ完成状態になるとは、流石のマグネアでも予想出来ることではなかったのである。


 ゆえにマグネアは、後悔と共に、驚愕していた訳だが、その驚き度合いは、ワルツたちのことをしばらく観察していたマグネアよりも、完全な初対面である編入生たちの方が圧倒的に高いと言えた。彼らは、マグネアから、"面白い研究の話がある"と声を掛けられただけで、まさか駆けつけた次の日には、月に行けるとは思っていなかったのである。マグネアが研究者たちに掛けた話の内容は、"月に研究所を作る目処が立ったから、一緒に研究所を設立しないか"というもの。"すでに月に研究所の建物が立ったから一緒に研究をしないか"などとは、一言も言っていなかったのだ。


 しかし、物言わぬ(?)編入生たちから、昏倒した事情を聞くことは出来ず……。彼らの事情を理解出来なかったワルツたちは、ただ待つことしか出来なかったようだ。


 一方、ルシアたちのかるた遊びは、先ほどの鬼ごっこ同様、熾烈を極めていた。


「こ、ここだけ腕が重くなる?!」

「そ、そんな……。カードに手が届かない……」

『ふふっ。ルシアちゃんらしい妨害ですね』

「妨害になるのかn——」

「皆、身体の鍛え方がなってないのじゃ」スッ

「あ゛あ゛っ?!」


 かるたを取られまいとしたルシアが、重力制御魔法を使って、かるた付近の重力を重くしていたのだ。ちなみにかるたの読み手はポテンティアで、彼はかるた遊びそのものには参加していない。


「なんでテレサちゃんだけ動けるのさ!」


「そりゃ、機械の身体じゃからのう。元々重いゆえ、この程度の重さではビクともしないのじゃ」


「ぐ、ぐぬぬぬ……!」


 ルシアは恨めしげな視線をテレサへと向けるが、テレサは至って涼しい表情。彼女にルシアからの視線や気配に反応する素振りは無い。まるで子どもの戯れに付き合う大人のようとも言えよう。いや、むしろ、実際に年下のルシアからすれば、大人げない反応だったと言うべきか。


 逆に、余裕のない反応を見せていたのは、アステリアとマリアンヌである。とはいえ、超重力に恐れおののいていた、と言うわけではない。


 かるた遊びというものを2人とも理解していて、どうにか手札を増やそうとしていたのだが——、


『続きまして……あ——』


——と、ポテンティアが、最初の一言を口にした瞬間に、テレサの手が動いて、対象のかるたを取ってしまうからだ。


 これには、反応速度だけには自身があったアステリアも、超重力を筋力でどうにか出来る自身があったマリアンヌも舌を巻いていたようである。もはや、彼女たちのプライドはズタズタに蹂躙されていたと言えた。


「ふむ……。皆、妾にカードを取らせてくれるように、空気でも読んでおるのかの?」すっ


 反応までの時間に緩急を付けながら皆の反応を見つつ、また手札を増やしたテレサは、涼しい表情で問いかけた。ちなみに、彼女が超反応でかるたを見つけられる理由は、ポテンティアが発言した言葉を、高速化した思考の中で聞いて、かるたを探しているからだったりする。まさに、チートだ。


「は、早すぎ……!」

「もう、なんなんですの?!」

「勝てる気がしません……」

『テレサ様、ズルしていませんか?』


「ふむ……それは妾にではなく、ア嬢に言うべきはなかろうか?」


 と、やれやれ、といった様子で、肩を竦めるテレサ。


 この時、アステリアとマリアンヌは思ったようだ。……これほどまでに卓越した身体能力や反応能力を持つテレサは、なぜ、普段、自信なく振る舞っているのか、と。


 まぁ、そうは思っても、直接聞けることではなかったためか、結局誰も質問することはなかったようだが。


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