14.17-24 極秘プロジェクト?24
午後は座学の時間となったが、教室にワルツの姿は無かった。教室にいるのは学生たちだけ。更に言えば、ルシアやテレサ、アステリアやマリアンヌ、そしてポテンティアなど、ワルツの関係者の姿も無い。
教室どころか、学院内にすら、彼女たちの姿は無かった。では一体どこにいたのかというと——、
「やっぱり、ここからの景色はとても綺麗です」
——というアステリアの言葉通り、月面研究所。より具体的には、月面から惑星アニアを一望できるエリア3-1にいた。編入生たちが倒れてしまった場所だ。
そこにはワルツの他、アステリアなど、教室を抜け出した人物たち全員の他、学院長であるマグネアの姿もあった。この時のマグネアは、学生としてその場にいたわけではないためか、フィンの姿ではない。
そしてなにより。その場には5台のベッドが並べられていて、その上で、それぞれ幻影魔法が解けて元の姿に戻ってしまった高齢者たちが眠っていたようである。
そう、ワルツがマグネアに対して出した提案とは、一言で言うなら荒療治。
「(さてどうなることやら……)」
編入生たちがショックを受けたのは、惑星が一望できる場所にいきなり連れてきたことが原因なのだから、意識がボンヤリとしている寝起きの状態で、月面の景色を見せれば、起きている状態よりも小さなショックを受けるだけで済むのではないか、というわけだ。
ただ、ワルツとしては、それで問題が解決する自信があるわけではなかった。彼女の生まれ故郷である現代世界においても、初めて見た月面や宇宙の景色にトラウマを抱える者たちがいないわけではなかったからだ。
果たして、編入生たちはどうなのか……。自らの意思で月面研究所計画に参加したのなら、耐えきれるのではないか……。そんな不安と期待を抱きながら、ワルツは編入生たちが目を覚ます瞬間を待った。
ちなみに、ワルツに付いてきた他の者たち、特にルシアたちが何をしていたのかというと——、
「じゃぁ、テレサちゃんが鬼ね」
「仕方ないのう……。『全員止まれ』なのじゃ」
「「『ちょっ?!』」」
「はい、タッチ。今度はア嬢が鬼の?」
「まだ逃げてないんだけど?」
「言い訳かの?」
「仕方ないなぁ……。じゃぁ、今度は私が追いかけるから、みんな逃げてね?私はテレサちゃんみたいに心が小さくないから、3分間だけ待ってあげるよ。ふふん。最後の一人を捕まえるまで、誰も逃がさないから」ゴゴゴゴゴ
「「『ひぃっ?!』」」
「ふっ……ア嬢ごときに捕まえられる妾ではないわ!では皆の衆?頑張るのじゃ?」スタタ
「えっ……」
「身体が動かないのですけれど……」
『言霊魔法を解除してくれないのですか?!』
——といったように、鬼ごっこをしていたようである。それも、魔法を使った、ミッドエデン式(?)の鬼ごっこを。
力技で、ほぼ2人だけの遊びと化していたルシアたちの鬼ごっこもまた、高齢者たちへの荒療治の一環だった。月面からの景色とは別で、将来的にルシアの強大な魔力を見て、高齢者たちが昏倒してしまう可能性を否定できなかったので、今のうちから慣れさせようとワルツは考えたのだ。本来、地上で授業を受けているはずのルシアたちが月面研究所に来ていたのは、なにも、遠く離れた場所に行ってしまうワルツに付き添うためではないのである(?)。
「彼ら、いつ目を覚ますかしら。出来れば、下校時間になる前に目を覚ましてもらいたいのだけれど……」
「あの……ワルツさん?」
マグネアがワルツへと、戸惑い気味に問いかける。
「ん?何かしら?」
「あなたがたは、いつもあのような遊びをしているのですか?」
「あのような遊び?あぁ、鬼ごっこ?私は勝負にならないからやらないけれど、あんな風に遊ぶのは良くあることだと思うわよ?」
「……私も身体が動かないのですが」
「……テレサの言霊魔法の影響ね。ちょっとテレサ?こっちにも影響が来てるから、言霊魔法を解除しなさいよ!」
「え゛っ……仕方ないのう……。皆『動いても良い』のじゃ」
ズドォォォォン!!
皆が動けるようになった瞬間、爆煙の向こう側に消えるテレサ。どうやら、鬼役になったルシアの追撃の魔法が直撃したらしい。
その様子を見ても、ワルツは一切顔色を変えること無く、眠る高齢者たちの方へと意識を向けていたようだ。その他の者たちは、半べそ状態で逃げ回ったり、獣の姿に戻って走り回ったり、あるいは虫の姿になって四散したり……。
そんな中でマグネアは、爆煙に飲み込まれたテレサを見て唖然としていたようだが——、
「ふん。その程度で妾の足を止められると思ったら大間違いなのじゃ」キュィィン
——煙の中から無傷で現れた彼女の姿を見て、顎が外れんばかりに驚いていたようである。
しかし、それこそが、ミッドエデン式(?)の鬼ごっこ。今回、ワルツがルシアたちを連れてきたのは、高齢者——つまりマグネアにも、普段の自分たちの行動に慣れてもらうためだったのだ。
光狐「絶対に逃がさない……」
機械狐「絶対に逃げるのじゃ」




