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14.17-16 極秘プロジェクト?16

「……なにをされたのですか?」


 カタリナがミッドエデンからレストフェン大公国の学院へと到着したその時には、ついに5人目の編入生(こうれいしゃ)も心肺停止状態になっていた。そんな高齢者たちに重力制御システムを用いた心肺蘇生術を施すワルツに対し、カタリナが問いかける。


「いや……驚かせるつもりは無かったのだけれど、驚きすぎて、心臓が止まっちゃったというか……」


「ワルツさんらしくない……」


「何と言ったら良いか……故意ではなくて、事故というか……」


「……で、彼らは何に驚いたのですか?」


 高齢者たちが重体に陥った理由を理解したカタリナは、的確に回復魔法や薬物投与を施し、流れるように患者たちを救っていく。しかし、具体的な理由をワルツが喋ろうとしなかったので、カタリナは眉を顰めてしまったようだ。……ワルツは一体、何をしたのか。あるいは、何を隠しているのか、と。


 2人の近くにはマグネアもいたが、カタリナはマグネアに対しては話しかけなかった。ワルツが喋らないからと言って、マグネアに問いかける選択肢はカタリナの中に無かったのだ。


 マグネアもマグネアで、テキパキと編入生(ちじん)たちを蘇生させていくカタリナに対し、話しかけられないでいたようだ。当然だ。人の命を救っている人物に話しかけて、その手を止めるなど、言語道断。しかも、助けられている対象が知人なら尚更で、マグネアが問いかけられるような空気ではなかったのだ。


 対するワルツは、カタリナがジトリと見つめても目を逸らすばかりで喋ろうとしない。彼女は理由を喋れなかったのだ。月面研究所計画は、ミッドエデン関係者には秘密で進めている計画。対して、カタリナはそのミッドエデンにおける中心人物。ここでカタリナに理由を喋ってしまえば、秘密に計画を進める意味が無くなってしまうからだ。


「(でも、カタリナだし……)」


 口が軽い人物というわけではない上、むしろ逆に喋らない方が余計に追求されるのではないか……。ワルツは喋るかどうかを悩んだ。


 とそんな時。


   フワァ……


「えっ……」


 ワルツの鼻孔をツンとしたアルコールの匂いが刺激する。もう一つ付け加えるなら、自身の目の前を、黄色とも赤色とも言えない色に包まれた。カタリナが急にワルツのことを抱きかかえたのである。


「喋れないのなら、無理に喋らなくても大丈夫です。私はいつだって、ワルツさんの味方ですから、喋られる時に教えてください。ただ……見捨てるような事だけはしないでくださいね」


 カタリナのその言葉に、ワルツは目を見開いた。ワルツは思い出したのだ。……かつてカタリナは、勇者パーティーから捨てられたメンバーだったことを。


「えっと……ごめん。彼らの治療が終わったら全部話す……」


 ワルツには、嘘を吐くことも、誤魔化す事も、秘密にすることも出来なかった。それは、信頼してくれているカタリナのことを裏切ることに他ならないからだ。


  ◇


 蘇生が終わった編入生たちのことを、学院の医務室に運んだ後。カタリナは——、


「では、私は帰ります」


——と言って、ミッドエデンへと帰ろうとする。ワルツからはまだ何も聞いていないというのに、だ。


「えっ……原因は聞かなくても良いの?」


「先ほども言いましたが、ワルツさんが話したくなった時に話してください。無理に話す必要はありません。私はいつでも待っていますから」


 まるで聖母のような微笑みを浮かべながらそう口にするカタリナを前に、ワルツは尚更に心を痛めた。


「(もしも、これを故意にやっているのだとすれば、トンデモない人物になったわね……カタリナ……)」


 的確に自身の心を動かしてくるカタリナを前に、ワルツは深く溜息を吐く。それから——、


「カタリナ?これから少し、時間ある?」


——彼女に対して、事情の説明をする事にしたようだ。


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