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14.17-15 極秘プロジェクト?15

 初めて特別教室の学生たちが月面へとやってきたとき、彼らはワルツたちが作った簡易宇宙船の中で外の景色を見ることができた。しかしそれは、船の強度を保つことを考慮して作られた小さな窓を介してのこと。今、彼らの眼前に広がっていた真っ暗で眩い世界には、窓らしい窓——いや壁らしい壁は存在していなかった。全面がほぼ透明な材質で作られた巨大な空間だったのだ。


 事前説明なしに案内された学生たちは、窓がないものだと錯覚したようである。そもそも、真空というものがどういった場所なのかをよく理解していない彼らにとっては仕方のない事だと言えるかも知れない。


 そんな透明で明るい部屋の中、ワルツは手で太陽の光を遮りながら、宇宙(そら)に浮かぶ青い星を見上げつつ、説明を始めた。


「ここがエリア3-1の展望室ね。全面、放射線と紫外線と赤外線を遮断する特殊なガラスでできていて、宇宙線とかが人体に影響を及ぼすようなことはないから安心して?まぁ、展望室って言っても、外の景色を観察するためだけの場所ではなくて、研究室だったり、カフェテリアだったり、色々と使い道はあるのだけれど——って聞いてる?」


 ワルツはローバーに乗っていた者たちを見渡しながら問いかけた。しかし返事は無い。もちろん、死んでいるわけでもない。皆、部屋の圧倒的な見通しの良さに、言葉を失っていたのだ。


 月面は、雲も霞も無いために、遠くまで見渡すことの出来る真っ白な砂漠のような場所だった。そのためか、遠近感が無く、皆、妙な感覚に囚われていたらしい。空に浮かぶ青い星も、現実感を奪う原因の一つとなっていたに違いない。


「……なんだろう」


 ミレニアがポツリと零す。


「なんだか、自分が、ちっぽけな存在に思える……」


 目の前の景色を見ると、自分がいかに小さなものなのかを否が応でも突きつけられる……。もしや自分は、虫と大差無いほど小さな存在なのではないか……。ミレニアはそんな錯覚に襲われていたらしい。


 彼女だけでなく、ジャックたちも圧倒されていたらしく、周囲を見回したり、明るいはずなのに星が見える空を見上げたりしながら、言葉を失った様子で固まっていた。一つ一つの事柄が、惑星上から見える景色とまるで異なっていて、彼らの頭の中にあった常識が、音を立てて崩れ去りつつあったのだ。


 そんな彼らはまだ、マシな方だと言えた。若さが"非常識"を許容していたからだ。


 しかし、年齢ゆえに、"常識"の塊と化していた編入生やマグネア、それに担任教師であるハイスピアたちも、興味をもって外の世界を見ていたかどうかは定かでない。彼ら彼女らが積み上げてきた常識の高さは、学生たちとは比べものにならないほど高く、それが崩れ落ちるというのは、人によっては恐怖を覚えてしまうほどのもののはずだからだ。


 実際——、


「(あっ、お爺ちゃんたち、息してない……)」


——余りのショックに息をすることを止めていた者が2名ほどいたようである。いや、息と言うより、心拍が停止していると言うべきか、


「(ほ、ほら、マグネア!貴女も景色に圧倒されてないで、そこの2人が死ぬ前に、蘇生させなさいよ!あっ……もう1人も心臓が止まっちゃったじゃない!)」


 犠牲者(?)が3人になってもマグネアの反応が芳しくなかったので、ワルツは仕方なく高齢者たちを元の世界へと戻すことにしたようだ。このまま老人たちを展望室に残しておくと、そのうち全員が心肺停止の状態になると判断したらしい。


「もう、仕方ないわね……。ルシア?みんなのこと、ちょっと見ておいてもらえるかしら?」


「ん?あっ……うん!分かった!」


 ルシアはワルツの方を見て察したらしい。編入生の一部の幻影魔法が解けて、元の姿に戻っていること。そして、泡を吹いて白目を剥いていることに……。


 幸い、他の者たちは、景色に見とれていたせいか、編入生たちの正体には気付いていない様子だった。ワルツは皆に気付かれる前に、自分とマグネア、それに編入生たちを惑星上にある学院の教室内へと戻す。


   ブゥン……


「やばいやばい!4人目も心肺停止とか、ちょっと待ってよ!」


 ワルツが慌てている中、5人目も顔色が悪くなっていく。心臓が止まりそうになっているらしい。


 そんな中で、ようやく、マグネアが我に返る。


「はっ?!」


「ちょっとマグネア!早く、応急処置よ!応急処置!くっ……!カタリナを呼ばなきゃダメかしら……」


 せっかくミッドエデンの者たちには秘密で月面研究所を作ろうとしていたのに……。そんなことを考えながらも、ワルツは躊躇すること無く、ミッドエデンからカタリナを呼び寄せることにしたようだ。流石に4人同時に心肺停止に陥るというのは、ワルツにも想定外だったのである。


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