14.17-13 極秘プロジェクト?13
というわけで、一行は、月面を数キロメートル移動することになった。たったの数キロメートルしかない距離なので、歩けない距離ではなかったものの、まるで水中を歩くように自分の思い通りにならない月面を歩こうとする者はおらず……。皆、ワルツが用意した電動馬車もとい月面ローバーに乗って移動することになった。
最初にワルツたちがいたエリア1と呼ばれる区画には、学院をコピーして張り付けたような建物が建っていた。だだっ広くはあったものの、まったく何もない、というわけではない、そんな区画だ。天井には無数のライトが取り付けられていて、まるで昼間の空のように区画の中を明るく照らし出していた。
その一つ一つが、特別教室の学生たちにとっては驚愕すべきことだったようだが、それはまだ序の口。エリア1の外壁までやってきたところで、彼らは更なる驚きに襲われる。
「これがエリア1とエリア2-1を接続する隔壁よ?名前は無いわ?ただの扉ね」
隔壁のサイズは、縦横共に150m程のサイズがある巨大な扉だった。いったい何を通すために、これほどまでに大きな扉を作ったのか、と身内ですら疑問に思うほどの巨大な扉だ。
ローバーを止めて地面に降り立ったワルツは、隔壁の横にあったパネルを操作した。すると——、
ガコンッ……
——どこかで何か大質量の物体を叩き付けたかのような音が聞こえたかと思うと——、
ズズズズズ……
——隔壁がゆっくりと左右に開き始めた。
隔壁は、エレベーターのように左右に開く構造をしていた。それも、2段式だ。単純に1段式の扉にすると場所を取るので、2段式を採用したようである。ワルツはそこまでして、巨大な扉を作りたかったらしい。
「お姉ちゃん、何を通すつもりなんだろ?」
バスのような見た目のローバーの席に座りながら、ルシアは首を傾げた。ちなみに、施設を作ったのも、扉を作ったのも、ルシアである。彼女は姉に言われるがままに建物を作ったのだが、その用途までは聞いていなかったらしい。
そんなルシアの言葉に返答したのは、テレサだった。
「ふむ……少なくとも、エネルギアではなさそうなのじゃ。あれは全長も全幅もあの扉よりずっと大きいからのう」
「私が知ってる中で大きな物体って言ったら、エネちゃんかポテちゃんか……デプレクサ様の、あのなんとかって言う乗り物しか知らないんだけど……。お姉ちゃん、ホント、何を通すつもりなんだろうね?」
「さぁの?大は小を兼ねるとも言うし、とりあえず適当に作ったのではなかろうか?」
「お姉ちゃんならありえるかなぁ……」
半分納得し、そして半分納得できない様子で目の前の壁を見つめるルシア。扉が完全に開ききるまでにはおよそ1分ほど掛かるらしく、テレサと会話をしている間もまだ開き続けていたようだ。
そんな扉の向こう側は、暗闇に包まれていた。天井の照明が切れていたのである。
しかし、次の瞬間——、
バツンッ!
——どこかで何かが叩き付けられたかのような大きな音が聞こえてくると、暗闇の向こう側——エリア2-1の天井が一気に眩しくなる。エリア2-1の電源が入ったのだ。
その光景を眺めつつ、ワルツはローバーに戻ってきた。
「この先がエリア2-1ね。まだ何もない場所だけど、研究所を作るとすれば、ここから先のエリアになると思うわ?こんな感じの区画が、エリア1を取り囲むように6つあるから、好きなように使って構わないわよ?」
ワルツはそう口にするものの、誰からも返答は無い。皆、ポカーンと口を開けたまま周囲の景色を眺めるだけだった。
結果、ワルツは、少し残念そうに肩を竦めながら、ローバーを進めた。返答が戻ってくることを期待していたらしい。
まぁ、それはさておき。エリア2-1の景色に変わった様子は無い。時折、月面特有の謎の植物(?)が生えているくらいだ。地面から生えた銀色の髭、あるいはゼンマイのようにくるりとした見た目の植物(?)で、ルシアが建物を立てた瞬間に生えてきたものである。
そんな植物が点在するエリアを、ローバーは真っ直ぐに走って行く。向かう先は、正六角形型の区画の反対側にある壁。ワルツ曰く、エリア3-1と呼んでいた区画に繋がる隔壁だった。
エリア1、エリア2-1〜2-6までは良いのじゃが、エリア3以降のナンバリングをどうしようか悩んでおるのじゃ。
まぁ、エリア1からの最短距離で数えた区画数、としておこうかのう。ストラテジーゲームの盤面のような感じで。




