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14.17-12 極秘プロジェクト?12

「……と、皆さん、普通に歩けるようになったところで、今度はこれに乗ってもらいます」すっ


「んん?なんだこれは?」


「月面は歩きにくいので、簡単に移動するための乗り物よ?電動式の馬車ね」


「「「「   」」」」


 ジャックを始めとした特別教室の面々は、表現し難い表情を浮かべながら、ワルツに対してジト目を向けた。移動するための乗り物があるのなら、この1時間の運動は何のためのものだったのか……。ジャックたちは口から言葉を出さなかったものの、叫びに近い主張をその表情に乗せていたようだ。


 だが、ワルツに、ジャックたちの反応を気にした様子は無い。たとえ乗り物があろうと無かろうと、普通に行動するためには、月面での運動に慣れる必要があるからだ。まぁ、ワルツの場合は、皆が自分に向ける表情の意味を理解していない可能性も否定は出来ないが。


「じゃぁ、早速だけど、私たちがいるエリア1から、エリア2、エリア3へと、外に向かってドライブするわよ?目的地は、エリア3の外殻にある展望施設。エリア1や隣のエリア2じゃ、外の景色は見られないからね」


 という、ワルツの言葉通り、今、彼女たちがいたエリア1には、窓と言えるものが無く、四方八方を壁に囲まれた箱の中のような場所だった。外の景色を見るには、エリア1の外に出なければならないらしいが——、


「エリア2とか3とかって何だよ……」


——ジャックも他の者たちも、ワルツが口にしていたエリアという表現に疑問を抱いていたようである。


 一応、ワルツは、皆に対し、図で月面研究所の構造について説明した事があった。しかし、エリアについての説明は軽く流しただけであり、詳しく説明していなかったのである。


「何?覚えてないの?」


「えっ……お、覚えてないというか、そもそも教えてもらったか?」


「……教えたつもりでいたのだけれど、まぁ、いいわ。エリアっていうのは——」


 ワルツはそう言って、空中にホログラムを浮かび上がらせた。元々、彼女の機動装甲で使用していた技術を簡略化させて、持ち運べるようにしたものだ。


「まず、エリア1っていうのは、私たちが今いるこの六角形の建物のことよ?壁から壁までが、ちょうど1kmしかないから、歩こうと思えば歩けないことは無いわ?小さな重力の中で頑張る必要はあるけれどね?」


「それ、1kmしかない、というか、1kmもあるとツッコミを入れた方が良いやつか?」


「むしろ、話の腰を折らないでもらいたいわね。で、エリア2っていうのがエリア1を取り囲むように作られた建物群のこと。エリア1を取り囲むように、エリア1と同じような六角形の建物が建っていて、それぞれエリア1と同じく1kmのサイズがあるわ?ちなみに、エリア2は、エリア2-1からエリア2-6まであって——」


「やっぱり話の腰を折らせてくれ!頼むから!」


 ジャックは思わず声を上げた。


 するとワルツは、「何よ?」と不満げな表情を浮かべながら、ジャックからの質問を待つ。


「こんな規模の建物をいつの間に作ったんだよ?!……あぁそうか。これから作るんd——」


「えっ?昨日の夜に作ったばかりだけど?」


「   」


 ジャックは再び言葉を失った。ワルツの言葉が信じられなかったらしい。


 その一方で、彼は、ワルツの説明を受け入れてもいたようである。ワルツならやりかねない……。ワルツなら不可能も可能にする……。頭の中では理解出来ていたジャックを混乱に突き落としたのは、彼自身がもつ"常識"と言う名の物差しのせいだった。


 他の者たちも同じだ。ワルツが示した図の上では理解していたが、自身の常識が、ワルツの言葉を理解することを拒否していたのである。


 若い学生たちですらそうなのだ。これが、人生経験の豊富な教員レベルになると、尚更だと言えた。ハイスピアなどは、普段通り現実逃避をして、ニコニコユラユラと揺れる有様。学生に化けていたマグネアでさえも——、


「ふふ……ふふふふ……」


——笑みが止まらない様子だった。まぁ、マグネアの場合は、すべてを受け入れている可能性も否定はできないが。


 そして、編入生たち——もとい高齢の研究者たちに至っては、ワルツの話が壮大すぎたことと、未だ外の景色を見ていなかったこともあり、ワルツの言葉をまったく理解出来ていなかったようである。常識以前の問題で、彼らは未だ、ワルツという人物について、知らなすぎたのだ。


 そんな彼らがもしもこの場でワルツの言葉を理解出来ていたなら、彼らの未来は変わっていたかも知れない。覚悟できていることと、まったく知らない事とでは、真実を知ったときに受ける衝撃は、まるで異なるのだから……。


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