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14.17-09 極秘プロジェクト?9

 ワルツによる座学の授業は、それほど長くは続かない。彼女自身の集中力が無い、というわけではなく、クラスメイトたちに様々な情報を一気に詰め込みすぎても、受け止めきれないからだ。


 特に、編入生たち——もとい、学院長のマグネアが選出したと思しき月面研究所計画への参加者たちは、比較的高齢者ばかり。この世界においては知識が豊富と言える彼ら彼女らではあるが、ワルツが説明する知識は、この世界には無いものが大半だったためか、皆、学習の出発点は、若い子供たちと同等。むしろ、年齢的な面で見れば、ハンデを負っているとさえ言えた。そんな編入生たちの事を慮って、ワルツは一気に授業を進めるのを止めたのだ。


 理由はもう一つある。


   フワァ……


 この場が月面だったために、重力が非常に小さかったこと。つまり、何をするにしても、元の惑星上にいた時とはまったく異なっていたので、運動の訓練が必要だったのだ。


「はい、みんな。これからラジ○体操するわよ!……ってみんな、知らないか。まぁ、とにかく、身体を動かして、運動の方法を学ぶわよ?」


 ワルツたちは教室を出て、建物の外へとやってきた。


 そこは月面ではあったものの、エリア1と呼ばれる巨大な構造物の中であり、空気が充満していた。ワルツが転移魔法陣を活用して、惑星アニア上の空気を循環させていたのである。


 また、エリア1を構成する壁が分厚いこともあり、太陽風などを主要因とした放射線の影響を受けることも無かった。そのおかげで、エリア1の中に限れば、人は自由に活動することが出来たのだ。


   フワァ……


 そんな中、運動(?)の方法をいち早く見つけている者がいた。


「……ア嬢?それは、運動とは言わぬのじゃ」


 というテレサのツッコミ通り、ルシアが空中に浮かんでいたのである。


「普段よりもずっと小さな力で浮かぶから、調整が難しくって……。少し練習しなきゃならないから、これも運動だよ!」


「……勝手なことをやって、ワルツ先生に怒られても知らぬのじゃ?」


 テレサがルシアに向かってジト目を向けながら忠告すると、ルシアは素直に地面に降り立った。その様子を見る限り、どう見ても重力制御魔法が不慣れなようには見えない。


 このとき、周りのクラスメイトたちは、ポカーンと口を開けたまま、ルシアの浮遊を見ていて、ぴょんぴょんと跳ねながら、自分も出来るのではないかと試そうとしていたようだ。特に薬学科の双子辺りが、である。ちなみに、ルシアの重力制御魔法は、莫大な魔力をダダ漏れ状態にするという特性上、たとえ1/6の重力になったとしても、真似して出来るものではない。


 まぁ、それはさておき。


「とりあえず、普通に走ってみましょうか。多分、無理だと思うから」


 ワルツは徐にそんな事を言いだした。


 その言葉を聞いて、ジャックたち騎士科の学生たちが、鼻で笑う。


「ただ走るだけかよ」

「月まで来て走るだけか?」

「余裕だな」


「ふーん。じゃぁ、走ってみて?」


「「「えっ?」」」


 絶対に上手く走れない、と顔に書いてありそうなワルツの様子に、騎士科の学生たちが固まる。


 そんな中、最初に走り出そうとしたのは、寡黙なラリーだ。しかし——、


   グルン……


——彼は最初の一歩を踏み出したところで、一回転してしまった。地面を蹴る強さが強すぎたらしい。


 他の学生たちは、その様子を笑うが——、


   グルン……

   グルン……

   グルン……


「あれ?」

「うおっ?!」

「えっ……マジ?」


——といったように、皆、宙返りをするばかりで、上手く走れない。小さな重力下では、運動の調整が難しいのだ。


 一方、上手く走っている者もいた。


「全然疲れないですね」タッタッタッ


 アステリアである。彼女は元の惑星上にいたときと同じように走っており、重力が小さくなった影響は無さそうな様子だった。彼女の腰から生える尻尾が、効果的に働いているらしい。


 逆にマリアンヌは、何かに捕まっていなければ、歩くことさえ侭ならなかったようだ。


「ど、どうして皆様、そのように普通に歩けますの……?」


 彼女は、魔女ゆえか、筋力(?)が強く、気を抜くと吹き飛んでいきそうになるらしい。


 そしてテレサ。


「……」すたすた


 何の問題も無く、歩くことも走ることもできた。重力が1/6になったところで彼女の体j——おっと、この話はやめておこう。


 といったように、ワルツが始めた最初の体育の授業は、波乱に満ちた内容で始まったのである。


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