14.17-08 極秘プロジェクト?8
月の重力は、惑星アニア、あるいは地球のものに比べて1/6ほど。地球の周りをグルグルと回っている月とほぼ同じである。
ゆえに、ワルツが窓から飛び降りても、その速度はゆっくりとしていて、地面に足をついても、大きな衝撃には——、
ドスンッ!!
「あっ……これ、ヤバいやつかも。多分、皆は、やめておいた方が良いと思うわ!」
「「「「えっ」」」」
——まぁ、それなりの速度が出ていたので、衝撃は小さくなかったようだ。E=1/2mv^2の運動エネルギーは、重力の強さに関係無いからだ。むしろ、位置エネルギーとしてE=mghと書いた方が分かりやすいか……。
今にも飛び降りようとしていた他の学生たちを呼び止めると、ワルツは逆にジャンプして教室の窓へと戻った。その様子を見る限りは、下手な落下をしても怪我をするようには見えないが、それはワルツだからこそ言える事であり、他の者たちに当てはまる話ではない。
教室に戻ったワルツは事情を説明する。
「ここは月だから、さっき私がやったとおり、そこの窓から飛び降りても死ぬほどの速度は出ないと思うけど、頭から落ちたり、打ち所が悪かったら……死ぬかもしれないわね」
と言いながら、黒板に位置エネルギーの式を書くワルツ。ついでに惑星アニア上と月上で、位置エネルギーがどう異なるのかについても説明する。
「例えばジャックを例に挙げるけど……元いた学院の窓から、ジャックが1m下の地面に飛び降りた時の衝撃と、今いる月の上で6m位の高さから飛び降りた時の衝撃はほぼ同じになるのよ。重力の大きさは1/6くらいだからね」
「……それ、俺を例に挙げる必要は無いよな?」
ジャックがすかさずツッコミを入れるが、ワルツはスルーする。
「だから、その窓から飛び降りた場合、だいたい20mくらいだから……計算しやすくするために丸めて18mとすると、元の惑星上で換算して、だいたい3mの高さから落下したのと同じくらいの衝撃が足に来る、ってわけ。ジャックの場合、足腰を痛めるのは間違いないわね」
「だから、それ、俺じゃなくても同じだよな?!」
「じゃぁ、ミレニアで例える?それって、かわいそうじゃない。こういう時こそ、男子が、犠牲になるべきでしょ?どうせ例え話なんだし……」
「…………」
ミレニアの名前が出たためか、ジャックは黙り込んだ。下手な事を言えば藪蛇になる事を察したらしい。
すると、今度は、話題に上がっていたミレニアが、ワルツに向かって質問する。
「ワルツさん……いえ、ワルツ先生。重力以外に違う点は無いのでしょうか?
「そうねぇ……厳密に言えば、流れる時間の早さも違うわね」
「「「「えっ?」」」」
「月にいた方が、少しだけ時間の流れる速度が早くなるわ?だから、元いた学院基準で授業を行うと、少しだけ授業の時間が短くなって……皆の寿命も、惑星上にいる人たちと比べれば、短くなるわね」
「「「「え゛っ?!」」」」
「まぁ、100年で2秒くらいの差だけど……」
ワルツの説明を聞いたクラスメイトたちは、一斉に安堵したような表情を見せた。それからすぐにワルツの話に聞き入ったのは、物理現象が月面と惑星上では大きく異なるので、色々と興味を引かれたからか。
その後も、ワルツの講義が1時間ほど続き、月と惑星との違いについて科学的な説明が行われた。その際、数式や物理学が分からなかった編入生たちは首を傾げて大混乱していたようだが、今までワルツの授業を受けてきたクラスメイトたちは、問題無く理解していたようである。
「(また、一から説明し直しが必要そうね……)」
見るからに混乱していた編入生たちを前に、ワルツは内心で頭を抱えたとか、抱えなかったとか。
E=mghのmも1/6になりそうなのじゃが、mは"質量"であって、惑星上においての"重さ"とは異なるゆえ、月面上でも惑星上でも同じなのじゃ。
……と物理の授業で説明を受けた当時に、教諭が何を言っておるのか分からなかったことをふと思い出したのじゃ




