14.17-05 極秘プロジェクト?5
どこからワルツがやめるという噂が広がったのか……。ルシアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、テレサは原因を考えて眉を顰め、ポテンティアは悪い冗談だと苦笑を浮かべ、そしてマリアンヌとアステリアは——、
「そうだったのですか?!」
「そうだったのですの?!」
——と、ルシアたちに思わず問いかけた。
それに代表して、ルシアが返答する。
「それはないかなぁ。お姉ちゃんがやめるときに、私たちだけが残るっていうのは、絶対にあり得ないし……」
「そう……ですよね」
「ですわよね……」
ルシアの説明を聞いたマリアンヌとアステリアは、安堵の表情を浮かべた。2人とも突然ワルツがいなくなる事態を想定していなかったらしく、ワルツが失踪した場合に、どうやって生きていけば良いのか、分からなくなっていたのだ。
ワルツが失踪するという最悪の事態を想定すべきかも知れない……。マリアンヌとアステリアが、内心で慌てている一方で——、
「お姉ちゃんが学院をやめるなんて、誰が言ってたの?」
——ルシアは、噂の火元がどこなのかを突き止めようと、ミレニアに対して問いかけた。
すると、ミレニアは複雑そうな表情見せながら、ルシアから目を逸らすと、こんなことを言い始めた。
「……じつは、昨日の夜、お婆様——学院長が、誰かとお話ししているのを聞いたんです。ワルツさんが学院を……学生をやめるって」
「学生をやめる…………あっ」
「あっ」
『なるほど……』
ルシアは察した。ついでに、テレサとポテンティアも察した。確かにワルツは学生をやめようとしているのだ。その一点においては、紛れもない事実だった。
結果、ルシアたちが納得げな反応を見せているのに対し、ミレニアが眉間のシワをより深く刻み込んだタイミングで——、
ガラガラガラ……
——教室に担任教師のハイスピアがやってきた。どうやら話し込んでいる間に、ホームルームの始業時間が近付いていたらしい。ただし、普段よりも少し早めの時間だ。
ハイスピアがやってきた事で、特別教室の生徒たちは、始業前だというのに、一斉に自分の席へと散らばっていった。皆が、ハイスピアから、何か話があるのだろうと察したのだ。具体的には、ワルツが学院からいなくなるのかならないのか、その辺りの話について。
実際、ハイスピアが教室の中に現れた時、その背中を追うように、ワルツも姿を見せたようである。そんな彼女の表情は、どこか恥ずかしそうでもあり、疲れ切った様子でもあり……。決して神妙そうな表情は見せていなかった。一見する限り、これから学院を去ろうとしているような雰囲気には見えないと言えるだろう。
そして2人は、教壇に立って、既にクラスメイトたちが全員登校していることを確認した後で……。早速、本題を切り出した。最初に口を開いたのは、ハイスピアだ。
「今日は皆さんに、お知らせが2つあります」
そんなハイスピアの言葉に反応して、ジャックが問いかけた。
「先生!そのお知らせは、良いお知らせですか?悪いお知らせですか?」
「そのどちらでもない……というよりは、良いお知らせと言うべきなのでしょうね」
ハイスピアがそう答えると、ジャックは口を噤んで自分の席に着席した。どうやら想像していたような——つまり、ワルツが学院を去るような展開ではなさそうだったからだ。他のクラスメイトたちも、ジャックと同じようなことを考えたらしく、ハイスピアの返答を聞いて、安堵したような表情を見せていたようである。
ところが——、
「最初に皆さんに伝えておかなければならない事があります。今日からワルツさんは、この学院の学生ではなくなります」
「「「「…………え゛っ」」」」
——ハイスピアの発言は、ジャックたちが想像する中で、最悪の発言だったようである。そのせいか、皆が目を見開き、口をあんぐりと開けるという、大層な驚き方をしていた。どうやら、彼らの中にあったワルツの存在は、いつしか"大切"と言えるような存在になっていたらしく、ワルツが学院を去ることに、大きな悲しみと戸惑いを感じていたようである。
しかし、ハイスピアの話はそこで終わりではなかった。
「その代わり、今日からワルツさんは、この学院の教師になります」
「「「「…………は?」」」」
再び教室の中の空気が固まる。反応は、ワルツが学生をやめる、とハイスピアが発言したときとほぼ同じ。どうやら、人というものは、嬉しくても悲しくても、驚いたときには同じ反応を見せる生き物らしい。




