14.17-04 極秘プロジェクト?4
学院に着くまで、マリアンヌは悩ましげに考え込んでいる様子だった。ポテンティアの説明が、彼女には理解出来なかったらしい。
しかし、悩んだところで、出る答えなど無いと気付いたのか、彼女は頭を切り替えて——、
「では、教えてくださいませ、ポテ様。ポテ様は、エムリンザ帝国をどうされるおつもりですか?」
——疑問を直接、ポテンティアへとぶつけた。
するとポテンティアは、特に悩む様子なく、まるで最初から結果は決まっていたと言わんばかりの様子で、短く返答した。
『現状維持です』
「現状維持?今の状態を続ける……という事ですか?」
なぜ現状維持なのか……。新たな疑問を得たマリアンヌは、ポテンティアへと確認する。
すると、ポテンティアの返答が、首肯と共に戻ってくる。
『そういうことです。理由はいくつかありますが、今は現状維持が最良と判断したのです。もしもこの先……おっと、もう学院に着いてしまいましたから、この話はまた今度と言うことにしましょう』
ポテンティアはその言葉を最後に、エムリンザ帝国の件について、口を閉ざした。実際、学院の校門を入った所には、複数の生徒たちの姿があり、誰かに聞かれる可能性が高いと言えた。テレサの幻影魔法も、常に展開されているわけではないので、あまり下手な事を言えば、極秘情報や間違った噂などが広がってしまう恐れがあったのだ。
『人の口に戸は立てられませんからねー』
「…………そうですわね。また、時間があるときに、お話を聞かせて頂けると助かりますわ?」
と言って前を向くマリアンヌ。そんな彼女に向かって、ポテンティアは、細めた視線を向けたのだが、そのことにマリアンヌが気付いた様子はなかったようだ。
その他の者たちは、エムリンザ帝国については興味がなかったらしく、思い思いに会話を交わしながら、テクテク道を歩いていたようだ。その中に、1人だけ、マリアンヌたちの会話に耳を傾けていた者がいたようだが……。ただ、その人物は、2人の会話に参加すること無く、ただ静かに2人の話を聞くだけだったようだ。
◇
そして、一行は、特別教室へとやって来る。普段は一番目か、二番目くらいの早さで教室にやって来る一行だったが、今日は随分と様子が違っていた。
「ん?あれ?時間を間違えたかの?」
一行の中で、最初に教室へと足を踏み入れたテレサが、思わず時間を確認する。それほどまでに、教室の中にはクラスメイトたちが揃っていて、授業の準備を始めていたのだ。
「おはようございます、皆さん」
「お、おはようなのじゃ……(おかしいのう……)」
「おっはー」
『「おはようございます」』
「おはようミレニアさん」
学級委員(?)のミレニアから飛んできた元気の良い挨拶に、テレサたちが一斉に返答する。
しかし、ミレニアの反応は芳しくない。
「あれ?ワルツさんは……今日はお休みなんですか?」
そう、一行の中に、ワルツの姿が無かったのだ。彼女は、教室の前まで、皆と一緒にやってきていたのだが、教室には入らずに、ドアの前で別行動を取っていたのである。
ミレニアの問いかけに、ルシアが答えた。
「うん、ちょっと用事があるって、ハイスピア先生のところに行っちゃってるよ?」
「ハイスピア先生のところに?」
「あれ?もしかしてミレニアちゃん、お姉ちゃんのこt——もがっ?!」
「ア嬢?それは言ってならぬのじゃ。皆にはまだ秘密なのじゃ」
「もがっ?」
あれ、そうだっけ?と言わんばかりのルシアの口から手を引いて、テレサは補足する。
「さっき、登校してくるときに、ワルツが言っておったじゃろ?皆には自分から言うから、それまでは待っておるように、と」
「んー……あぁ!言ってたね!(言ってたかなぁ……)」
「まったく、ア嬢は、何を聞いておるのじゃ……」
そう言ってテレサが肩を竦めた時だった。彼女はふと、教室の空気が妙な雰囲気に包まれていることに気付く。
「んあ?」
ミレニアも含めて、教室の中にいたクラスメイトたちが、なぜか深刻そうな表情を浮かべて、お互いに顔を向けあっていたのだ。その様子を見たテレサは、少々混乱した。
「(もしや、皆、もう知っておるのじゃろうか?)」
いったいどこから情報が漏れたというのか……。テレサがそう疑問に思っていると、クラスメイトたちの中で一番情報を持っていそうなミレニアが、心配そうな表情を見せたまま、こんなことを言い出した。
「やっぱり……噂通り、ワルツさん、学院をやめちゃうんですか?」
「「「「『…………えっ?』」」」」
テレサだけでなく、ルシアたちの驚きの声も、きれいに重なった。




