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14.17-01 極秘プロジェクト?1

 次の日の朝。村の地下にあるワルツ家の食卓には、普段通りに色々な人々の顔ぶれがあった。


 例えば、ミッドエデンの王城代替施設でメイド長をしているイブ。彼女はなぜか、ワルツたちの朝食を作るために、毎朝うどんかパンを作りに来ていた。揺るぎない小麦娘だ。


 例えば、レストフェン大公国の大公ジョセフィーヌ。彼女もなぜか、ワルツたちと一緒に朝食を食べるために、ほぼ毎日、食卓に座っていた。あまりにも自然に席に着いていたためか、彼女の気配の無さは異常と言えるほどで、テレサは彼女が幻影魔法でも使っているのではないかと疑っているほどだった。


 そしてもう一人。普段は来ることのない——いや、本来、来てはならない人物がその場にいた。


「ははっ!ワルツが先生か!なるほどな!」ニカッ


 今や本名を皆に忘れられてしまった狩人である。たまにワルツの顔を見に来ないと禁断症状が生じるらしい彼女は、今朝、雨に打たれた猫のごとく、プルプルと震えながら虚ろな表情を浮かべつつ、ワルツ家にやってきた訳だが……。今やその面影は見て取れない。十分にワルツ成分を補給出来たらしい。


「あ、はい。色々教えていたら、学院長に目を付けられてしまいまして……」


「ワルツらしいな!」


 そう言って明るい笑みを浮かべる狩人を見て、ワルツは思う。


「(もしかして狩人さん、躁鬱かしら?)」


 明るいときと暗いときとの落差が激しすぎる……。狩人の振る舞いを見たワルツは、不安に駆られたようである。


 とはいえ、ミッドエデンには、カタリナという優秀な医者がいるはずなので、ワルツは深く考えないようにする。もしも狩人が躁鬱——いや、危険な禁断症状(?)を発症しているのだとすれば、カタリナがドクターストップを掛けるはずだからだ。……なお、その禁断症状を治すため、カタリナが狩人に対して、ワルツに会ってこい、と処方箋(しじ)を出しているとかいないとか。


「ミッドエデンの方はどうですか?最近、変わった事はありませんか?」


 長い時間、顔を合わせていない友人に話しかけるかのように、ワルツが問いかける。


 すると狩人は「変わったことかー」と口にしながら、空中に視線を漂わせて……。ふとこんなことを言い出した。


「そういえば、最近、王都周辺で、大規模な工事が行われていてな?」


「大規模な工事?あぁ、この前、帰ったとき、見慣れない堀みたいなものが作られていましたね?」


「あぁ、それの話だ。私もてっきり、堀を作っているものだとばかり考えていたんだが、どうやら違うらしくてな?」


「えっ?じゃぁ、なんで穴なんか掘っているんですか?」


「私にも分からないんだ。というか、聞いても教えてくれないんだ。コルテックスも、テンポも、アトラスも……」


「アトラスも?珍しいですね……(何やってるのかしら?あの子たち……)」


 兄弟揃って狩人に情報を公開しようとしない……。それは、これまでにない異常な事だと言えた。狩人のミッドエデンにおける立場は、所謂国防相。王都で大規模な公共工事が行われているというのなら、情報が入ってこないというのはありえない事だった。


 もちろん、絶対にあり得ないという話ではない。狩人よりも上の立場にいる者が情報統制を敷いれば、ありえる話である。ようするに——、


「コルテックス主導で、何かやってる、ってわけね……。テンポやアトラスが主導で極秘プロジェクトを遂行するとは考えられないし……」


——というワルツの予想通り、コルテックスが暴走して、何かトンデモないことをしている可能性が高かった。


 しかし、コルテックスとは別の意味で、極秘プロジェクト(?)を実行しようとしているワルツにはあまり関係の無い話だった。


「まぁ、コルテックスのことだから、悪い事をしようとしているわけではないと思います。やりすぎだと思ったときは、ストレートにやめなさい、って言ってやってください。狩人さんの話なら、ちゃんと聞いてくれると思うので」


「そうか。うん。わかったよ。でもな……私としては、静かに見守ってやりたいと思うんだ」


「いえ、むしろ、狩人さんにはブレーキ役になってもらいたいというか……」


「いいんだよ。ワルツ。コルテックスが、ミッドエデンという国にとって、悪い事をする訳がないからな!」ニカッ


「(あぁ……ブレーキ役がいない……)」


 ワルツは内心、頭を抱えた。いまや、ミッドエデンの国政に関わる者の中で、ブレーキ役と言える者は狩人くらいのもの。そんな彼女が、コルテックスのブレーキ役を放棄すれば、国が暴走を始めるのは目に見えていると言えた。


「(コルテックスも、本気で色々やる気ね……。私の見てないところで……)」


 と、そのコルテックスに内緒で、月面に研究所を建てようとしているワルツが頭を抱える。もはやこの世界において、"暴走"という言葉は意味を成さなくなっているのかもしれない。


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