14.16-37 ワルツ先生20
一方、ミネルバが廊下に出て来る直前、部屋の外にいたルシアたちは、というと——、
「……と言ったように、人は眠っているとき、触覚、味覚、聴覚、視覚共に鈍感になりますけれど、嗅覚だけは敏感なのですわ?ですから、臭気魔法を使って人を操るときは、眠っている人に対して行うのが特に有効。相手を眠らせれば、あとはこっちのものですわ?それに、人って、眠っているときは息を止められませんもの」
——臭気魔法を操る魔女による魔法の講義が行われていた。
一応、ルシアたちは皆、マリアンヌの講義を素直に聞いていたようだが——、
「(別に眠らせなくても、起きてるときに縛り上げちゃえば良いんじゃないかなぁ?)」
「(言霊魔法ですべて片付きそうなのじゃ。言わぬが……)」
「(嗅覚が鋭い私たちの場合、眠らなくてもマリアンヌ様の魔法の影響を受けてしまいそうです……)」
『(眠らない僕らには関係の無い話ですねー)』
——頭の中では、あまり真面目には受け取っていなかったようだ。例外はアステリアくらいのもので、他の者たちにとって、臭気魔法は、取るに足らない魔法だったようである。ちなみに、テレサの言霊魔法には、耳を塞がれると効果が無いという問題があるので、その代替として有効な魔法だったりする。
5人がガールズトーク(?)に花を咲かせていると——、
バンッ!
——学院長室からミネルバが出てきた。彼女は乱暴に扉を閉めると、憤慨した様子でどこかへと立ち去っていく。
この時、ルシアたちは、テレサによる幻影魔法の影響を受けており、不可視の状態だった。そのおかげで、5人の姿は、ミネルバに見られることは無かった。
激怒しながら立ち去っていくミネルバの背中を見つめながら、ルシアたちがそれぞれに考えを口にする。
「何かあったのかなぁ?」
「ふむ……。ワルツが怒らせたのかの?」
『いえ、その場合、生きて出てこられるわけがありません』
「(ワルツ様って、これまでどのようなことをされてきた方ですの……)」
「思い通りにならなかったのは間違い無いのだと思います。多分、あの方が欲していたものを、ワルツ様が横取りするような形になってしまったのではないでしょうか?」
アステリアが推測を口にした途端、皆が彼女の方振り向く。
『なるほど……。理にかなった推測です』
「でも、お姉ちゃん、何をしたんだろ?」
「いや、何かをしたわけではないのじゃろう。差し詰め、マグネア殿から何か提案を受けたのではなかろうか?」
「あの方が怒ってしまうほどに望んでいたもの……。すぐには思い付きませんわね……。少なくともお金ではないはずですわ?」
と、皆が悩んでいる中で、再びアステリアが口を開いた。
「多分、椅子だと思います」
『「「「椅子?」」」』
「あの方が欲する椅子……役職です。この学院で、学院長先生からもらえる椅子と言えば——」
「学院長の椅子じゃな?!」
「いえ、違うと思います。学院は指名制でも世襲制ではありませんから」
「あ、うん……。そうかの……(なぜ知っておる……)」げっそり
「でも……んー……何の椅子なんでしょうね……」
テレサの推測を一蹴して、考え込むアステリア。そんな彼女の思考を、皆が黙って待つ。
すると、見る見るうちにアステリアの顔が赤く染まる。まぁ、獣寄りの獣人である彼女の頬は、毛でビッシリと覆われているので、顔色を伺うことはほとんど出来ないのだが、その尻尾は忙しなく揺られていたようだ。
「あの……皆さん?そんなにじっくりと見つめられると、恥ずかしいのですが……」
「あ、ごめん。アーちゃんって、お姉ちゃんみたいに恥ずかしがり屋だったんだね」
「普通、皆に見つめられれば、恥ずかしくもなるじゃろ……」
『そんなものですかねー?』
「さ、さすがはポテ様……。ところで、どうですの?アステリアさん。何か思い付きまして?」
「正直分かりません。特定できる情報が足りませんので。でも……推測で良ければ聞きます?」
アステリアが問いかけると、皆の首が縦に振られる。結果、アステリアが——、
「多分、特別な立場の先生になれ、と言われたのだと思います。学院長先生しか指名できず、あの方が欲していた立場の先生です。ワルツ様ほどの方なら、先生になることも可能でしょうから」
——と絶妙な推測を口にした直後のことだった。
ガチャリ……
学院長室からワルツが出てきた。




