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14.16-31 ワルツ先生14

 強固なオリハルコン合金のごとく硬かったはずのワルツの心がグラグラと揺れ動いていた頃。


 学院長室の外では、ルシアたちがワルツの事を待っていた。


「お姉ちゃんたち、なに話してんだろ?」

「……差し詰め、研究所に必要な資材とか、人材とか、要望とか……まぁ色々な話をしておるのではなかろうかの?」

「未だに信じられないです。これからあのお月様の上で授業を受けることになるなんて……」

「いえ、アステリア。それは違いますわよ。私たち、あそこに引っ越すのですわ?」

『引っ越す……』


 と話すのは、ルシア、テレサ、アステリア、マリアンヌ、そしてポテンティアの5人だ。


 中でもポテンティアの表情は優れなかった。理由はただ一つ。


『お月様の上だと、僕、動けなくなるんですよね……』


 ポテンティアの身体を形成するマイクロマシンたちは、電波による電力伝送と通信を行っていた。そのせいで、あまりマクロマシンたち同士が離れすぎると、ポテンティアは動けなくなってしまうのである。午前中にワルツがポテンティアを月に連れて行った際、彼が砂のようになって崩れてしまったのがその具体例だ。


 ポテンティアが溜息交じりにそう零すと、マリアンヌがどこか言い難そうな様子で口を開く。


「あの……ポテ様?前から気になっていたのですが、ポテ様はどういった方なのですか?もしかしてこの質問……余り聞いてはいけない類いの質問だったかしら?」


 時には砂のように崩れ、時には巨人のような姿になり、時には黒光りする昆虫のような姿になる……。そんなポテンティアの正体について、マリアンヌはワルツから一言、こう聞いていた。「マイクロマシンの集合体よ?」と。そんな説明で分かるはずもないというのに、だ。というよりも、ワルツ自身、説明が面倒になったと言うべきか。


 対するポテンティアも、今までマリアンヌとアステリアには、詳しく説明してこなかった事もあり、今の暇な時間を利用して、説明することにしたようだ。


『んーと、まず大前提として、僕は人ではありません』


「まぁ……それは何となく分かりますわ?」


 マリアンヌが相づちを打つ。アステリアは黙って狐耳を傾けている、といった様子だ。


『かと言って虫でもなければ、戦艦でもなく、巨人でもない』


「それは……そうでしょうね……」


『では、何だと思いますか?』


「……こちらが聞いているのに、逆に質問で返すのですの?」


『一言で答えたら面白くありませんし、ワルツ様が出てくるのに時間が掛かりそうなので、クイズみたいなものですよ』


「クイズ……ですか……」


 そう言いながら周りの者たちを見渡すマリアンヌ。特に彼女はルシアとテレサに視線を向けて、2人の反応を確認したようだ。だが、2人とも、マリアンヌの視線に気付いていても苦笑を浮かべるだけ。どうやら、ポテンティアのクイズに付き合うつもりらしい。


「……では、ヒントを。いきなり当てるのは難しいですわ?いつでもどこにでもいますから、雰囲気的には幽霊みたいな存在だと思えなくもないですけれど、流石にそれはありえませんし……うん。やはり、ヒントは必要ですわね」


『……いえ。それ、意外に正解かも知れませんよ?』


「……えっ?」


『いや、なんというか……僕、幽霊みたいな存在なんですよ。実は』


 ポテンティアがそう口にすると、しばらくマリアンヌが固まる。頭の中の処理が追いつかず、フリーズしたらしい。


 それはアステリアも同じだった。ただ、彼女の場合は思い至ることがあったらしく、間もなくして、「あぁ、なるほど!」と手を合わせていたようだ。なお、何がなるほどなのかは不明である。


 更にそれからしばらくが経ち、マリアンヌの思考が戻ってくる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。冗談でも幽霊というのは如何なものかと……」


 とマリアンヌが戸惑っていると——、


『幽霊と、そうではない者たちの違いは何なのでしょうね?』


——ポテンティアがいた場所とは、マリアンヌを挟んで反対の方から、別のポテンティアの声が聞こえてくる。2人目のポテンティアが突然現れたのだ。さらに——、


『幽霊の科学的、あるいは魔法学的な定義は存在しません』


——壁からニュッと3人目のポテンティアが生えてくる。挙げ句の果てには——、


『そして僕は、科学的にも魔法学的にも定義されない存在』


——天井からも生えてきた。


 そして、4人のポテンティアが結論づける。


『『『『ゆえに、僕は幽霊と同じ……というわけです。まぁ、異論は認めますが』』』』


 4人のポテンティアに囲まれたマリアンヌは、周囲を見渡して唖然とするが……。そんな彼女の口から零れた言葉は、驚いていたり、怯えていたりする人物が口にするような内容ではなかったようだ。


「……これなら、一人くらい持ち帰ってもバレませんわよね……」


『『『『え゛っ』』』』

「「「えっ」」」


「いえ、冗談ですわ?」


 魔女マリアンヌの一言がその場を凍り付かせた——そんなときのことだった。


   カツカツカツ……


 廊下の向こう側から、一人の人物が、学院長室に向かって歩いてくる。


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