14.16-29 ワルツ先生12
そしてワルツは皆と共に、学院長室へとやってきた。ただし、フィンは、1人で学院長室に来るようにと言っていたので、他のメンバーたちは廊下で待機。より具体的には、テレサの幻影魔法により、他人からは知覚できない状態になって、ワルツの事を待っていたようだ。
そんな中で、ワルツは学院長室へと入った訳だが、学院長専用の机に座っていたのは、学生フィンの格好をしたマグネアだった。
「……私に一人で来るように言ったのは、その格好を他人に見られないようにするためかしら?」
ワルツが問いかけると、マグネアは返答せずに椅子から立ち上がり、窓の外へと視線を向け……。そしてそのままの状態で、返答を始めた。
「……えぇ、そうですね。確かに、私は、学生フィンとして、生徒たちや先生方の様子を見守りたいと考えています。ちなみに、ワルツさんは、私がミレニアの祖母だということは知っていますか?」
「えぇ、まぁ。でも、急に話が飛んだわね?」
「一度聞いてみたかったのですよ。私の見た目はどうです?お婆ちゃんに見えますか?」
「……間違っても、そんな風には見えないわね。でもそれって……実は、マグネアの血統に、エルフの血か何かが混じっているだけなんじゃないの?」
ワルツは、エルフに年齢の限界がある、という話を聞いた事が無かった。少なくとも、今まで会ってきたエルフたちは、見た目と年齢が一致しない者たちばかり。故郷から離れすぎると、精神を衰弱させてしまうことくらいしか知らなかった。
ゆえに、ワルツは、マグネアが幼い少女に見える理由を、エルフの血統だから、と考えた訳だが……。どうやら違ったようである。マグネアは「フフッ」と笑みを零して、首を横に振った。
「いえ、違います。しかし、着眼点は良いと言えるでしょう」
対するワルツは、マグネアのその返答から、もう一歩突っ込んだ理由を考える。
「エルフの血が血統に含まれていなくて、でも着眼点は良い……。となると、エルフの遺伝子から、長寿に影響する部分を切り出して、自分の身体に取り込んだか——」
「……えっ?」
「それか、エルフの長寿の仕組みを、遺伝子レベルではなくて、もっと別の観点で見て、その原理を魔法か何かで再現することに成功したか……。そのどちらかしかないわね」
「…………」
マグネアは言葉を失った。ポカーンと口を開けたまま固まっているといった様子だ。
どうやらワルツの指摘は図星だったらしい。ただし、遺伝子の話が、ではない。エルフの身体に備わる長寿の仕組みを紐解き、魔法を使って自分の身体に適用した、という話だ。
マグネアの反応を見たワルツは、更に原理を絞り込む。
「老化は、細胞の死が、細胞の生に間に合わなくなることが原因だけれど……でも、マグネアの身体を見る限りは、代謝を早めている感じは無いのよね……。そんな事をしたら成長が止まらずに巨人になっちゃうだろうし。もちろん、まったく手を入れていないって事は無いと思うけれどさ?身体が小さいということころから推測するに、代謝はそれほど活性化させずに、細胞の死までの時間を延ばしてる、って感じかしら?まぁ、顕微鏡も何も無い国じゃ、細胞の存在なんて知らないと思うから……差し詰め、常時回復魔法を展開する事で細胞の死までの時間を延長しつつ、同じく身体強化の魔法も展開して、代謝の微妙な底上げをしている——ってところでどう?」
「…………」
マグネアからの返答は無い。先ほどから彼女は、ただ窓の外を見つめたままだった。当然、ワルツからは、マグネアの表情を伺い知ることは出来ず……。返答の無いマグネアを前に、ワルツは怪訝そうに首を傾げた。
そんな無言の時間が20秒ほど続いた頃。ようやくマグネアが深く溜息を吐く。
「1を教えて10を知る学生が稀にいますが、ワルツさんの場合は、1を教えて100も1000も知ることが出来るのですね」
そう言って振り向いたマグネアは、ひどく疲れ切っている様子だった。身体は未だ若いままと言えるかも知れないが、精神的には老化に抗えていないのかも知れない。まぁ、若者だからといって、ワルツの話に付いてこられるかと言えば、それはまた別の話だが。
「さて?それはどうかしら。最初から答えを知っているだけかもしれないわよ?」
「……それはもしや——」
マグネアは何かに気付いて、ワルツに問いかけようとした。しかし、彼女の口から言葉が出てくることは無かった。彼女が問いかける前に、ワルツが話し始めたからだ。
「それで、私がここに呼ばれたのは、なぜなのかしら?マグネアの長寿の秘訣を解き明かすために呼ばれたわけでもなければ、学生に紛れて授業を受けている事をバラされたくなくて、口封じをするために呼んだわけでもないのでしょ?いや、誰にも言わないけどさ?」
ワルツが問いかけると、マグネアは「そうですね……」と少し残念そうな表情を浮かべながら、ワルツに向かってこんなことを言い出したのである。
「ワルツさん。当院では学生ではなく、教師として活動していただけないでしょうか?」
マグネア(副音声)「お前が学生をやっているせいで、ウチの教員たちが、皆、自信とやる気を失っているのだが……そこの所、どう落とし前を付けてくれる?んん?」




