14.16-28 ワルツ先生11
午後の授業が終わり、クラスメイトたちに囲まれる前に逃げようとするワルツだったものの——、
「……ワルツ先生」
——ワルツはクラスメイトのフィンに話しかけられた。
フィンの正体はマグネアであり、ワルツに話しかけた彼女の声は裏声でも使っているのか若々しく……。そのためにワルツは笑ってしまわないよう、必死で表情を殺し、無心を努める。
「……何かしら?マg——」
「…………」にこぉぉ
「……いえ、フィンさん」
「マグネア学院長が後で、ワルツさんに一人で学院長室に来るように、と」
「…………分かったわ」
本当は分かりたくないのだが……。そんなことを思いながら、ワルツはフィンの言葉に首肯する。協力者として彼女を巻き込む以上、無視する事は出来ないと判断したらしい。
フィンがその場を立ち去った後。ワルツは、帰り支度をしていたルシアたちに声を掛けた。
「ごめん、ちょっと用事があるから、先に帰っていてもらえるかしら?」
すると、その直後。
「「『えっ……』」」
なぜか、約3名の者たちが、目を丸くして固まってしまった。ルシア、テレサ、それにポテンティアだ。アステリアも少し驚いている様子で、ワルツの言葉に耳を傾けていた。ちなみにマリアンヌはあまり気にしていない様子である。
なぜ3人は驚いた表情を見せたのか……。少なくともワルツには分からなかったらしく、彼女は頭の上にクエスチョンマークを浮かべてしまう。
怪訝そうに首を傾げるワルツを見て、彼女が何を言わんとしているのか分かったのか、テレサが口を開いた。
「ワルツが自分の事を置いて帰れと言うなど、珍しすぎるのじゃ。今までこんなこと、一度も無かったのではなかろうか?」
「えっ」
ワルツが、そんな馬鹿な、などと考えていると、ルシアとポテンティアも、テレサの言葉を肯定する。
「うん。いつも、一緒に行こうとか、待っててとか……色々な理由はあるけれど、お姉ちゃんが一人だけで行動するって事は無かったと思う」
『ですね。同じ建物内や艦内ならたまにありますが、完全に独立して行動するというのは、非常に珍しいパターンだと思います』
「そ、そうかしら……?」
指摘を受けたワルツは、自分たちのこれまでの行動を思い出してみる。
ルシアたちが個別に行動することは、ある。他の者たちも独立して行動することは、当然ある。しかし、ワルツ自身はどうなのか。
「(皆が場所を知っている工房で作業をするとか、他の誰か……例えばよく知った知り合いとかと一緒に行動するって事はあったけど、確かに、一人だけで行動するって、殆ど無かったわね……。あっても、移動くらい?)」
ワルツが作業をするときは、大抵、決まった工房の中なので、他の者たちから見て、ワルツがどこで何をしているのか分からないということは殆ど無かった。他の国などに旅に出たとしても、単独行動することは稀。理由は単純。ワルツは、人見知りが激しいために、一人で行動することが無いからだ。ちなみに、自覚が無いのはワルツだけで、身内の者たちにはよく知られたことだったりする。
「(まぁ、確かに、ルシアたちの言葉も一理あるわね……。一人で行動するとか萎えるもの。ってことは、私も成長したって事かしら?)」
ルシアたちが困惑する一方で、ワルツは内心、自分の成長(?)に感慨深いものを感じ取っていたようだ。なお、彼女が本当に成長しているのかは不明である。
「まぁ、学院長室でマグネアと話して帰るだけだし、大した事は無いでしょ。……多分」
ワルツにはトラブルが起きるとは思えなかった。これがもし、ルシアが単独の行動するのだというのであれば、ワルツはおそらく必死になって、誰かと一緒に行動するよう配慮したに違いない。そうでもしなければ、最悪、大事故に繋がりかねないからだ。……ルシア以外の誰かが。
しかし、ワルツの単独行動であれば、それは起きえないことだった。少なくともワルツはそう考えていた。
ところが、ルシアたちは、真逆の事を考えていたらしい。
「でも、お姉ちゃん。大丈夫?帰ってくるときに絡まれるかも知れないよ?」
「妾がいなくても、人払いは大丈夫かの?気に食わないからと言って、存在ごと消したらダメなのじゃ?」
『ちょっと手が滑った、とか言って、学院を破壊しませんか?』
「なんでそうなるのよ……」
皆、自分の事を何だと思っているのか……。そんなことを考えていくうちに、ワルツは——、
「……じゃぁ、皆、学院長室の前で待ってる?」
——単独で行動するのではなく、やはり皆と一緒に行動することにしたようだ。




