14.16-27 ワルツ先生10
たとえ、魔法を上手く使えない理由が、思い込みだったとしても——、
「すげぇ……」
「まるで自動杖じゃねぇか!」
「いや、でも、魔力が抜けていく感じがするし、やっぱり杖の効果があるんだろう」
——クラスメイトたちのワルツに対する評価はうなぎ登りだった。
「(あー、やばい……。胃が痛くなってきたわ……。痛くなるような胃は無いけれど……)」
クラスメイトたちの反応を見る限り、皆、ワルツが木剣の表面に施した刻印の効果だと思い込んでいるのである。それをどうやってひっくり返して、正しい理由を説明すべきなのか、ワルツにはすぐに思い付けなかった。この世界にはプラシーボ効果についての知識など存在しないからだ。
ちなみに、以前。アステリアも同じような状況になったことがあった。その際は、ただひたすらに時間を掛けて、誤解を解いたのだが——、
「(一人や二人ならまだしも、これだけたくさんいるとなるとねぇ……)」
——ひとりずつ誤解を解いていったのでは、どれほどの時間が掛かってしまうのか……。ワルツには想像すら出来なかった。
そんな時。ワルツの脳裏に天啓(?)が舞い降りる。
「(あぁ、そうだわ。騎士科の連中だけじゃなくて、魔法科の連中にもやらせれば良いのよ。そうすれば、杖の効果なんて無い、ただの木剣だ、って言ってもらえるに違いないわ!それに……そう、あの人もいるし!)」
なにやら思い立ったワルツは、後者の12人に声を掛けた。
「じゃぁ、次は残る13人……じゃなくて、ルシアとテレサと私を除いた10人。素振りをしながら魔法を使う練習を始めてちょうだい」
出席番号順で、後ろのメンバーは、魔法科の学生たちが多かったのである。しかもその内1人は、フィン——もとい学院長のマグネアが含まれていたのである。彼女が試せば、ワルツの刻印に意味が無い事を分かってもらえるはず……。
そんなフラグを立てながら、ワルツは指示を出したわけだが——、
ズドン!
バァンッ!!
チュィィィィン!!
——誰も彼もが、容赦の無い魔法の斉射(?)を初めてしまう。そんな魔法を受けても罅すら入らない訓練棟の壁は、流石のルシア製と言うべきか。
「ア嬢の場合は……まぁ、ここで魔法を使ってはならぬというのは分からぬでもないが、なぜ妾もなのじゃ?」
「多分、お姉ちゃん、テレサちゃんが言霊魔法と幻影魔法以外の魔法を使えないって知ってるからでしょ?剣を振っても何も出てこないんだから当然じゃないかなぁ?幻影魔法が攻撃魔法みたいに飛んでいくって、想像出来ないし……」
「……使ってみなければ分からぬではないか」
一部に抗議の声を上げる者がいたようだが、些細な問題だったためか、ワルツはその声を無視する。
それも当然の反応だと言えた。新たに木剣を杖代わりにして魔法を放った10人全員が、皆、喜々とした表情を浮かべていたからだ。
フィンも同じだ。少なくとも、ワルツが予想したような反応は見せていなかった。
「私……杖より、こっちの方が、上手く魔法を使える気がする……」
「それな?」
「うーん、素晴らしい。これ、買えないかしら?」
「…………」にこぉ
やはりワルツはフラグを回収出来なかったようである。
結果、ワルツは内心で白目を剥きながら、誤解を解くためのプランBを考え始めた。
「(マグネアまで喜ぶって、どういうことなのよ……。ようするに、普段使っている杖がダメダメってことじゃない……。いや……逆に、私の適当な刻印に、本当に魔法の発動を助ける効果がある……とか?)」
ワルツは試しに、刻印を施したフルーレの切れ端を振ってみた。
シーン……
「(……うん。分かっていたけれど、私には何の効果もないわね……)」
いったい何が答えだというのか……。考えれば考えるほどワルツは混乱して、自ら泥沼へと填まり込んでいった。
そして辿り着く。
「ま、誤解されたままでもいっか」ぼそっ
彼女が辿り着いたのは無我の境地。悩んでも仕方がないと悟った彼女は、もうそのまま誤解されたままでいることを決めたようだ。
ただ、保身のために、一言だけ言っておく。
「あぁ、信じてもらえるか分からないけれど、一言だけ言わせて?その木剣の刻印なのだけれど……皆が考えているような、魔法が使いやすくなるような効果は無いからね?」
「「「…………えっ」」」
「……えっ?信じてくれるの?」
アステリアの時はなかなか信じてもらえず四苦八苦したワルツだったが、どうやらクラスメイトたちの場合は、一応、ワルツの言葉を聞いてくれるようだった。なにしろ、彼らにとって、今のワルツは"先生"なのだから。




