14.16-26 ワルツ先生9
「んなっ?!」
ジャックの素振りと同時に、杖(?)の先端から魔法が飛び出した。その様子を見たクラスメイトたちは、一様に唖然とする。クラスメイトたちの大半は、ジャックがまともに魔法を使えないことを知っていたので、突然飛び出した魔法に驚いたのだ。
ミレニアなどはその代表例と言えるだろう。ジャックの幼なじみである彼女は、ジャックが所謂脳筋であると思い込んでいたので、まさか魔法が使えるとは思わなかったのだ。しかも飛び出した魔法は光魔法。眩しい程度の出力しかない魔法であっても、ジャックのイメージとは合っていなかったためか——、
「……ふふん」
——ミレニアは驚くと同時に、彼の魔法を鼻で笑った。彼女の名誉のために念のため言っておくが、ミレニアはジャックのことを馬鹿にしているわけではない。イメージのミスマッチに、おかしさが込み上げてきただけである。
対するジャックは、周りの者たちの驚きに気付くことは無かった。彼自身、クラスの誰よりも、自分の魔法に驚いていたからだ。
「こんな簡単に魔法が使えるのかよ?!」
ジャックは何度も杖(?)を振り回し、光魔法を連発した。その姿は、初めてレーザーポインターを手にした少年のよう。その内に、テンションが上がってきたのか、彼は光魔法を放ちながらクルクルと踊り始めた。
一方、その場には、頭を抱える者もいた。杖(?)を作り出したワルツだ。
彼女はジャックが魔法を殆ど使えなかったことを知らなかった。しかし、周りの者たちや本人の反応から、今の事態が異常事態である事を察していたのである。
「(いったいどうなっているのよ……)」
形状記憶合金で作ったただの棒きれに、魔法的な効果などあるわけがなかった。杖(?)の表面に描かれた模様にも、当然、意味は無い。ただのデザインだ。ほぼ間違いなく、プラシーボ効果である。それが分かっていたからこそ、ワルツは頭を抱えていたのだ。
「(つまり、この国の人々は、プラシーボ効果……いや、逆プラシーボ効果?で魔法が使いにくくなっているって事でしょ?なんでこんな事になってるわけ?)」
まるで誰かが、この国の人々に、魔法を使わせまいと画策しているような気がする……。そんな直感を得たワルツは、頭が重くなってきたのだ。ミッドエデンがある大陸にも、似たようなことを画策する人物が存在したからだ。
「(まぁ、いるのでしょうね……。何かが……)」
それとも、単に、自ら魔法が使えなくなるような文化に嵌まってしまっただけなのか……。そうだったら良いのに、と思いながら、ワルツは一旦自身の考えに蓋をした。悩んでも仕方がない事だからだ。
「(それはともかく、どうしましょうね……)」
杖っぽい装飾を施せば、とりあえず誰でも魔法が使えそう……。そう考えたワルツは、授業という名の追加の実験を行うことにした。
彼女は、近く箱の中に無造作に入れられていた木剣の一つを手に取ると、その表面を指でなぞった。その瞬間、木剣の表面に模様が浮かび上がってくる。木剣の表面を高温に加熱し、刻印を施したのだ。もちろん、魔法的な意味は無い。
「じゃぁ、ジャック。似たような効果(?)がある剣を何本か作るから、魔法が使えない人に回してもらえる?」
クラスメイトの名前を覚えていないがゆえに、ジャックを介して、魔法剣もどきを分配しようとするワルツ。
対するジャックは、快くワルツの頼みを聞いて分配を始めた。……というより、身体強化くらいしか魔法が使えなかった者たちが、わらわらと集まってきたと言った方がいいだろうか。
「お、俺にも貸してくれ!」
「おぉ、すげぇ細かい模様……」
「これで魔法が使えるのか?!」
「(すっごい喜んでるけど、本当の事は言えないわね……。木剣に意味の無い模様を入れただけなのだけれど……)」
大喜びで木剣を手にする騎士科の学生たちに向かって、内心、申し訳なさと呆れを感じつつ……。ワルツは彼らに対して言った。
「じゃぁ、さっきと同じ事をしてもらえるかしら?」
その直後だった。先ほどまでは魔法の"ま"の字すら出なかったはずの学生たちの剣から、色とりどりの魔法が飛び出したのである。
皆、喜々として魔法を放っていた。当人たちの他、学生に扮した某権力者も、とても喜んでいる様子で、キラキラとした視線を木剣とワルツに向けていたようだ。
ただ、ワルツの表情は暗かった。
「(どう説明しようかしら?これ……)」
この国は一体どうなっているのか……。いや、この国だけではなく、大陸全体の話なのではないか……。むしろ、ミッドエデンがある大陸でも、同じような事になっているのではないか……。ワルツの表情に差した影は、彼女が考え込むほどに深くなっていった。
ハンドラ☆ボックスなのじゃ。




