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6中-11 雨の町並み-後編3

薄暗い王城の廊下に、2人分の人影が、壁に設置された魔法の燭台から立ち上る紫色の炎によって形作られていた。

しかも、その人影からは、どういうわけか歩く音は一切聞こえず、周囲の雰囲気も相まって、異様な気配を放っていたのである・・・。


・・・まぁ、ワルツもユリアも、それぞれ事情があって、地面から少し浮いていただけなのだが。


「・・・で、やっぱり、ここに来るわけね」


とある大きな扉の前に着いた所で、ワルツはどこか納得げに呟いた。

そう、ワルツとユリアは、この街に来た最初の日の夜に、ユキたちと夕食会を開いた部屋の前まで来ていたのだ。


だが、そんなワルツに対して、ユリアは少々呆れ気味に指摘する。


「あの・・・ワルツ様?シリウス様の部屋はここじゃなくて隣ですよ?」


目の前の扉から少し離れた場所にある小さな扉を、迷宮に生気を吸われないように宙に浮かびながら指さすサキュバス(ユリア)


「え?・・・なんか・・・魔王がいそうな気配のする扉じゃないわね・・・。どちらかって言うと、単なる物置っていうか・・・」


「あの・・・ワルツ様?・・・思っていても口にするのは失礼かと・・・」


とはいえ、どうやらユリアとしても、同感だったらしい。


「ま、勇者に侵入された時のセキュリティーを考えた、カムフラージュか何かのためなんでしょ?きっと」


尤も、最後の大一番に挑む前に、周りの部屋を隈なく散策する可能性も否定はできないのだが・・・。

何故そんなことをするかについては・・・まぁ、わざわざ説明する必要も無いだろう。


「どうでしょうね・・・あの勇者様なら、そもそもボレアスに来ることすら出来なさそうなので、あまり防犯については考えなくてもいいと思いますが・・・」


「最早、強い奴が攻めてくるからとか、窃盗犯が入ってくるからとかですらなくて、そもそも来ないって扱いなのね・・・」


ロマンのない発言をするユリアに対して、ワルツは溜息を吐いた後、小さい扉の前へと移動して、徐ろに扉を引いてみた。

・・・だが、


ガチャガチャ・・・


「あれ?開かない?」


「え?引くんじゃなくて、押すんじゃないんですか?」


「いや、ちゃんと押してもみたわよ?ついでに、横とか縦とか、斜めとかにスライドできないかも試してみたし・・・」


どこかの忍者屋敷でありそうな隠し扉の開き方は、一通り試した様子のワルツ。

しかし、どんな開け方をしても、部屋の扉が開く気配は無かったのである。


「鍵がかかってるわけじゃ無さそうだし・・・もう、この際、壊しちゃいましょうか。実は立て付けが悪くなってるだけかもしれないし・・・」


「えっ・・・」


バァンッ!


ユリアの返答を聞くこと無く、ワルツは扉を無理矢理に引っ張って、事も無げに破壊してしまった。

ところが・・・


「・・・壁ね」


「あれ?」


扉を開くと・・・そこは壁だった。


「さすが迷宮。まさに迷路みたいな場所ね・・・」


「って、そんな冗談言ってる場合じゃないですよ!・・・シリウス様・・・一体どこへ・・・」


どうやら、この迷宮(しろ)は、ユリアの知っているデフテリー・ビクセンの第3王城では無くなっているらしい。

この分だと、彼女の道案内も意味を成さないのではないだろうか。


「・・・もしかして、完全に迷宮化しているの・・・?」


目の前の壁が物語る状況に、怪訝な表情を浮かべるワルツ。

彼女の予想通りなら、城の構造だけでなく、この空間に含まれるだろう街自体も、原型を留めていないということになるだろう。

その場合、ユキたちや市民たちを見つけることは、まさに迷宮の中で宝物を見つけることと同義になり、救出は非常に困難になるのだが・・・


(・・・いえ、まだ諦めるのは早いわね・・・)


ワルツは脳裏に浮かぶ『手遅れ』という邪念を、頭を振って追い出した。


恐らく外では、ルシア達が被害を最小限に抑えようと、今もなお行動してくれているはずなのである。

なので、諦めてしまうのは、囚われている者たちが既に飲み込まれてしまったか、あるいは絶命してしまったという証拠を見つけてからでも遅くは無いはずなのだ。


それに、とりあえずここまでは、以前、歩いた通りに来れているのである。

故に、細部が変わっていたとしても、基本的な空間の構造自体はそれほど大きく変わっていないのではないか。


ワルツは現状をそのように解釈して、このまま人々の捜索を続行することにした。


「・・・他に入り口は無いの?」


壁に手を当てて、その向こう側に空間が無いことを確認しながら、ワルツはユリアに問いかける。


「あとは・・・あっちの大きな扉の方から入って、中にある部屋を幾つか通過すれば、一応同じ部屋へ行けますが・・・」


「・・・それでダメだったら、壁を抜いて進むしか無いわね・・・」


非常食がない状態ではあったが、ここぞという時に力を出し惜しんで、後悔する結果になっても困ると思った様子のワルツ。

すると、そんな彼女の言葉に、ユリアは眉を顰めて言った。


「あの・・・ワルツ様?・・・多分、それ、無理だと思います。」


「・・・壁抜き禁止ってやつ?」


「そうですね・・・。一般的には、迷宮の中で、穴を掘ったりして、これまでに無かった新しい通路を作ると、その周辺の通路の構造がどういうわけか大きく変わってしまうと言われています。なので、壁を抜いた瞬間、ワルツ様が仰った通り、周辺の通路が文字通り迷路のようになってしまうのではないかと・・・。もしもそうなったら、恐らくシリウス様の部屋も・・・」


・・・ワルツ達が辿り着く前に、場所を変えられてしまう、その可能性は否定できないだろう。


「面倒ね・・・まぁ、いいわ。なら、正攻法で攻略しましょう」


「攻略・・・あ、はい。分かりました」


ワルツの言葉に、一瞬だけ疑問の表情を浮かべるユリアだったが、今の自分たちの状況が、紛れも無く迷宮攻略と同じ状態であることに気付いたようである。


「・・・さてと。それじゃ、開けるわよ?」


再び大きな扉の方へと戻ってきたワルツは、扉に手を掛けて、迷うこと無く、以前と同じように手前に引いた。


「・・・?やっぱり、廊下が変形したせいで、扉の立て付けが悪くなってるみたいね・・・」


そう言いながらも、扉を強引に引っ張るワルツ。

すると、


ギギギギギ・・・


そんな音を立てて、ゆっくりと扉が開き始めた。


「そうそう、コレよコレ。やっぱ、魔王城にはこの音が・・・いえ、何でもないわ」


扉の向こう側の様子を心配そうに覗き込もうとしているユリアを目の当たりにして、余計な口を(つぐ)むことにしたワルツ。


ギギギギギ・・・


そして大きく扉が開いたところで、2人の眼に見えてきた光景は・・・


『・・・』


二人を絶句させるのに、十分な衝撃を持っていた。


・・・本当なら会議室兼食堂となっている部屋へと続いているはずの扉。

だが、開けてみるとそこには、


「・・・街?」


真っ暗な夜空から、雨が静かに滴り落ちる、デフテリー・ビクセンの町並みが広がっていたのである。

んー、もうダメじゃー・・・今日は頭が痛いのじゃ。

やはり、以前書いた文の修正と、新しい話を同時に書くというのは、難しいのう・・・。


量で言えば、一日に1万文字じゃから、それなりの文量じゃと思うのじゃが・・・。

ん?全然足りない?まだ行ける?

・・・そうじゃのう・・・。

多分、妾の執筆能力がLv.5位に上がれば、なんとか行けるかも知れぬが、暫くは難しいのではなかろうか・・・。

ホント、一日に4万文字を書ける御仁はバケモノだと思うのじゃ・・・。

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