14.16-25 ワルツ先生8
ワルツから見ても、クラスメイトたちが四苦八苦していたのは明白だった。ただ、彼女には、なぜ四苦八苦していたのかまでは分かっていなかった。繰り返しになるが、彼女には魔法が使えないので、クラスメイトたちが魔法の使い方で悩んでいたとしても、その具体的な理由までは理解出来なかったのだ。
ただ、彼女は、まったく魔法が使えない状態から、無詠唱かつ片手間に魔法を自由に操れるようになった者の前例を知っていた。今回の授業にも参加していたアステリアだ。
そんな彼女が、木剣の素振りをしながらバンバンと火魔法を放っている様子を見て、ワルツはとある事を思い付く。
「あぁ、そうだ。ちょっと待ってね」
ワルツは先ほど作成したフルーレの先端を、素手でポキリと折った。いや、引き千切った。クラスメイトのジャックが大剣を使って全力で叩き斬ろうとしても斬れなかった形状記憶合金の先端部分を軽々と、だ。
その結果、ジャックは何とも表現しがたい表情を見せていたが、ワルツはその様子に気付くこと無く作業を続ける。彼女がしていたことは、千切ったフルーレの先端を加工して、未知の言語のようなものをそれっぽく刻印し、適当な模様を入れて……。見た目が杖のように見えるよう加工する。
そして数秒後、立派な杖(?)のようなものが完成する。
「はい、じゃぁこれ——」
作った杖を使って素振りしながら、同じ事をして欲しい……。と、言いたかったワルツだったが、彼女はそこでピタリと固まる。そして高速思考空間に突入した。
「(ヤバい……名前が分からない……)」
彼女は、興味の無いことを覚えない性格をしていたので、クラスメイトたちの名前を覚えていなかったのだ。
直前まで、実技に取り組んでいた12人は、あいうえお順で、上位の者たちだったのだが、そのうち半分は、"ア"で始まる者たちばかり。しかし、ワルツの頭の中にいる"ア"が付く人物はアステリアだけ。顔は知っていても、名前も覚えている者はいなかったのである。
「(あの双子の名前すら覚えていないのよね……。同じ顔だから、"双子"でいいや、って程度にしか覚えていないし……)」
薬学科の双子の姉妹は、あいうえお順で行くと上位に入るらしく、12人の中に含まれていた。しかし、名前は分からない。
「(どうにかして名前を聞き出す方法は無いかしら……)」
高速思考空間の中で、ワルツは思い悩む。もう、この際なので、名前を覚えていないことを正直に言ってしまうのも手ではないか……。いやいや、それは失礼が過ぎるのではないか……。ワルツは人知れず悩んだ。
そして彼女はふと気付く。
「あ、ジャックがいるじゃん」
「えっ?」
名前を知っているジャックの存在に気付いた瞬間、ワルツの思考が通常速度に戻り、ボソリと口からジャックの名前がこぼれ落ちた。
しかもジャックは、まともに魔法を使えていなかった人物の1人。実験台としてはちょうどいいと言える人物だった。
「ちょうどいいわ、ジャック。これを使って素振りしながら、さっきと同じ事をしてみてもらえるかしら?(授業が終わったら、皆の名前を覚えないとね……)」
「これって……なんだこれ……杖?いま作ったのか?!すg——」
「なんか文句ある?」じとぉ
「うえ゛っ……いや、無い……」
ワルツを馬鹿にしたわけではなく、むしろ賞賛しようとしたのだが、彼女から返ってきたのはなぜかジト目だったためか、ジャックは、それ以上、余計な事を言わずに、壁の方を振り向いた。
そして彼は手元に目をやる。
「(すげぇな、ワルツ……。いま、ほぼ一瞬で杖を作ってたよな……。しかも、あの棒きれから……)」
熟練の職人が彫り込んだような精巧な模様の入った杖を見て、ジャックは見とれていた。しかも、ワルツはほぼ一瞬と言える時間で、その杖を作り上げたのだから、彼のワルツに対する感心はかなり上昇していたようである。……そのおかげと言うべきか、ジャックの頭の中からは、ワルツがフルーレを引き千切った事は綺麗さっぱり吹き飛んでいたようだ。
そして——、
「ほら、早く」
「お、おう…………せいっ!」
——ジャックは先ほどと同じく、杖(?)を剣代わりにして、素振りをした。そして素振りをしながら魔法を放とうとする。
ちなみに、ジャックが使える魔法は、身体強化の魔法だけである。少なくとも、いまこの瞬間まで、彼は身体強化の魔法しか使えないと思いこんでいた。
しかし、実際にはそうではなかったらしい。
チュィィィィン!!
ジャックが振り下ろした杖(?)の先端から、一線の光が飛び出したのである。それは紛れもなく光魔法の輝きだった。




