14.16-24 ワルツ先生7
こいつは何を言っているんだ……。と言わんばかりに、ラリーはワルツの言葉を聞いて、訝しげな表情を浮かべた。
彼に限らず、ワルツが何を言っているのか分からなかったのは、クラスメイトたちのほぼ全員。勝手に自己解決した様子のワルツを前に、皆、似たような表情を見せていた。
そんな中、ワルツは自信満々に言った。
「じゃぁ、まずは、皆、剣を持ってもらえるかしら?あぁ、練習用の木剣で十分よ?」
ワルツは何をしようとしているのか……。皆、疑いながらも、ルツの言葉に従って、箱に入っていた木剣をそれぞれ手に持つ。
「剣を持ったら、みんな壁に向かって立ってもらえるかしら?等間隔で、少し距離を離してね?あぁ、場所的に全員は無理でしょうから、まずは半分半分でやりましょう。出席番号順で1番から12番目まで」
ワルツのその指示に従って、クラスメイトたちが、アステリアから順に、壁に向かって並び始める。その際、ワルツは壁からの距離についても離れていた方がいい、など注文を付けていたようだが、やはりクラスメイトたちにはワルツが何をやろうとしているのか、予想を立てることは出来なかったようだ。
そして、ワルツの次の言葉で、全容が判明する。
「じゃぁ、素振りをしながら、魔法を放ってちょうだい。魔法なら何でも良いわ?最悪、飛んでいかなくてもOKよ?騎士科の人たちは魔法が苦手だろうから、筋力強化の魔法でも良いけれど、素振りをしながら発動させてね?で、発動させたら、すぐに解除して、次の素振りをするごとに発動させること。じゃぁ、まずは10回。よーいスタート!」
ワルツのその言葉に、クラスのほぼ全員が固まった。彼らはワルツがやろうとしていることを理解したのだ。
ワルツがやろうとしていること——それは、魔法とは別のことを考えながら、魔法を使うというものである。今回の場合は、剣を振りながら、魔法を使う、というもの。言葉にすれば簡単なように聞こえるかも知れないが、しかしそれは、まだ経験の浅い特別教室の学生たちにとっては、恐ろしく難しい事だった。
一般的に魔法の使用には、詠唱が必要なのである。それも、どんな魔法を使用するのか、頭の中で思い浮かべながら。木剣を振りながら10回も魔法を唱えるなど、無理なのではないか……。それが皆の共通認識だった。
魔法科の学生たちの中には、無詠唱ならどうにかなるかも知れないと考える者もいたようだ。だが、無詠唱は一般的な方法ではなく、出来たとしても、生成される魔法は非常に弱々しいもので、剣を振りながらだと、上手く行く気はしなかった。
そんな中——、
「1!」ズドォォォォン!!
「2!」ズドォォォォン!!
——と魔法と素振りを両立させていた者がいた。アステリアだ。
彼女は木剣を振りながら、爆発系の火魔法を放っていた。剣術と魔法を組み合わせる、という当初の予定とは異なるが、それでも、ワルツに課せられていたタスクはこなしていると言えた。
皆が四苦八苦しながら素振りと魔法を両立させようとしている中で、なぜアステリアだけは安定して魔法が使えるのか……。魔法の発動に集中しなければならないというのに、アステリアに意識が行ってしまい、余計に魔法が使えなくなってしまったクラスメイトたちが少なからずいたようだ。
そしてアステリアの素振り10回が終わる。他のクラスメイトたちは、ほぼ0回。多くても1回。この違いは何なのか……。ワルツを含めて、皆が同じ事を考えた。
それから2人目がようやく素振りと魔法の組み合わせ10回のタスクを達成したところで——、
「はい、やめて!」
——ワルツがストップを掛けた。このままだと、1サイクルが終わるまでにトンデモない時間が掛かると判断したらしい。
皆が素振りをしている間、ワルツは、アステリアと他の者たちとの違いを考察していたようである。結果は明白。アステリアは無詠唱で魔法を放っていたのだ。
アステリアは最近まで、魔法を放った事が無かったのである。そんな彼女は、他の者たちとは少し変わった考えを持っていた。……杖を振れば、魔法が使えるようになるのだ、と。奴隷だったために、魔法の使い方を教えて貰えず、また杖も持たせてもらえなかった彼女らしい独特の思い込みだった。
そんな中で、彼女は、ワルツたちに出会って、ワルツが作った適当な杖を手にし、初めて魔法らしい魔法が使えるようになったのである。そのときアステリアは気付いたのだ。……魔法には、杖も必要無ければ、詠唱も必要無く、ただ魔力とイメージを練って放てばいいのだ、と。他の学生たちが、魔法には杖と詠唱が必要だという"常識"に引っ張られている中で、真逆の考えを持っていたアステリアだからこそ出来た素振りだったのだ。
そのことにワルツが気付いたかどうかは定かでない。しかし、彼女は、残る12人のクラスメイトたちに対し、新たなアドバイスを口にしたのである。




