14.16-23 ワルツ先生6
見る見るうちに元の形状に戻っていく形状記憶合金製のフルーレを見て、ミレニアは思っている事をそのまま口にした。
「生きて……る?」
「いいえ?ただの物理現象よ?生きているわけではないわ?」
ワルツはそう答えた後、クラスメイトたち視線が自分に向けられている気配を感じながら、作成したフルーレについて簡単に説明する。
「本来の授業の内容とは乖離するから端的に説明するけど、複数の種類の金属を混ぜることで、色々な性質持った合金を作る事ができるのよ。問題は、2つあって、純粋な金属を作り出す方法が大変だってことと、その配合をどうすれば良いのかってことなんだけど……。まぁそれは、薬学科か何かの授業で学んで貰えば良いと思うわ?」
今のままでは一生習うことは無いのだろうな、と予想しながら、ワルツは自分の話に耳を傾けていたクラスメイトたちへと短く説明して、話を切った。その際、約一名、背が低い薬学科の学生(?)が、目をキラキラと輝かせていたことにワルツは気付いていたようだが、ワルツは彼女のことを敢えて無視する。そんなワルツは、この時こう思っていたようだ。……彼女は暇なのだろうか、と。
ワルツは、某権力者が学生に化けているという意味不明な状況を頭の片隅に追いやってから、話を戻した。
「で、今日、ここで学んで欲しいのは、魔法と剣技の混合技術よ?正直言うと、魔法と剣技を組み合わせることが目的なのではなくて、魔法を普段の何気ない行動と組み合わせて、魔法と科学の応用の基礎を作る事が目的……なのだけれど……まぁ、それは今後の課題だから取りあえず後回し。今は、普段訓練して慣れている魔法と剣技を組み合わせて、魔法と剣技を同時に使う事になれて欲しいのよ。使う剣は何でも良いわ?木剣でもいいし、木の枝でもいいし、大剣でも……あぁ、これは直しておくわ」
と言って、足下に落ちていた大剣の剣先を拾い上げ、ジャックから折れた大剣を受け取るワルツ。彼女はそれを、ポテンティアへと手渡すと、再び説明に戻った。
「というわけで、まずは、自分の得意な魔法と剣とを組み合わせて、素振りをしてみましょうか」
と、ワルツが口にしたところで、ミレニアから指摘が飛んでくる。
「ワルツさん。それは難しいと思います」
「えっ?どうして?」
「例えば、私の氷魔法は、剣と組み合わせて使うと……剣が冷たくなって、手が剣に張り付いてしまうと思います。火魔法や雷魔法も同じで、剣に魔法を纏わせて素振りをすると、怪我をしてしまうはずです」
「ふーん……(そういうものなのかしら?)」
と言いつつ、ルシアの方へと視線を向けるワルツ。するとそこでは、ルシアが既に素振りをしており、剣先から複数の属性の魔法を放っていた。
それを見たワルツは、ミレニアに質問する。
「あんな感じは?」
「……誰でもアレが出来ると思います?」
「……無理なのでしょうね」
ワルツには、本当の意味で魔法を使うことが出来なかった。最近は転移魔法陣を応用して、魔法らしきものを使う事が出来るようになっていたものの、魔力を持たない彼女には、魔力から魔法を直接生成する事が出来なかったのである。
ゆえに、ルシアが魔法を発動させながら、軽々と素振りをしている様子を見ても、ワルツにはそれがどれほど高度な技術によって実現されているのか、理解することが出来なかった。結界魔法で自分と剣を保護しながら、素振りの放物線方向へと剣先から任意の魔法を放つ……。傍から見れば、『剣と魔法を組み合わせて素振りをしている』としか見えなかったルシアの行動には、ワルツの予想も付かないような高度な技術が用いられていたのだが、何も知らないワルツには、それが簡単にできそうに見えていたのだ。
「(切り口を間違えたかしら……)」
魔法実技のカリキュラムと剣術実技のカリキュラムを混合させて、最終的には、魔法と科学の混合の土台に出来るのではないか……。そんな安易な想像をしていたワルツは、早速、挫折を味わいそうになっていた。
そんな時の事だ。
「……ワルツ」
授業が始まって最初にワルツと模擬戦を行ったラリーが話しかけてくる。
「……さっき、どうして俺と模擬戦闘をしようと思った?」
「……あぁ、なるほどね」
いったい何がなるほどなのか……。クラスメイトたちの他、ラリーも同じ事を思ったようである。ラリー自身、ワルツに何か発想を促すために話しかけたわけではなく、単に疑問に思ったために話しかけたに過ぎなかったからだ。
だが、ワルツは、ラリーの問いかけから、一つの答えを思い付いたようだ。
「別に剣技と魔法を直接組み合わせる必要はないのね」
と。




