14.16-22 ワルツ先生5
金属の塊を余りに簡単に引き千切ってしまったワルツの握力を見て、クラスメイトたちは呆然とした——わけではなかった。あまりに現実離れしすぎた彼女の握力を、そのまま受け入れられるほど、クラスメイトたちは非常識の世界に足を踏み入れている訳ではなかったからだ。
ゆえに彼らはこう考えた。
「銀色の粘土?」
「なんか、手から煙が出ているような……」
「あの粘土、赤く光ってないか?」
「いや、そういう粘土なんだろう。魔法の粘土。薬学科なら持ってそうだろ?」
ワルツは金属の塊を捏ねているのではなく、捏ねると赤く光る魔法の粘土のようなものを扱っているのだろう……。クラスメイトたちは、皆、そう考えたようだ。なお、ワルツが手にしていたものは、魔法の粘土でもなんでもなく、ただの金属塊である。
ワルツは2種類の金属塊を、数千トンという握力で握りつぶし、一つの塊にしてしまった。当然、やわらかい訳ではない。握り締めるだけで金属の温度が上昇し、融解するほどの温度にまで上がり、溶け合ったのだ。重力制御システムを使って、金属の周囲から空気を排除していたことも、魔法瓶の中身に用に温度を上げた理由と言えるかも知れない。
その内に、ワルツの粘土細工(?)は、複数の合金の作成に成功する。元の金属は2種類だが、調合を変えることで、それぞれ特性の異なる合金を造り上げたのだ。
ワルツはその金属の出来映えに、ニヤリと笑みを浮かべながら、それらを束ねて、今度は細長く引き延ばした。まるでチーズのように伸びる粘土(?)を前に、クラスメイトたちから、「おー!」という声が上がる。
そして最後。赤熱する粘土の束(?)をねじって貼り合わせて……。ギュッと締め上げて、形を整えて、完成だ。
「はい、できた」
ワルツが造り上げたものは、ルシアが作ったレイピアよりも半分ほどの太さしか無い金属の棒だった。フェンシングに使うフルーレのような見た目だ。装飾も持ち手も無いために、尖っているだけのただの棒と言っても過言ではない。
それを見て、ミレニアが首を傾げる。
「なんだかすごいものを作っていたようですが……何ですか?それ……」
ミレニアの言葉は、クラスメイトたちの総意だと言えた。ワルツが何を作ったのか、誰にも分からなかったのだ。
「剣よ?それも、大剣と斬り結べるやつ」
「いやいや……そんなわけ——」
あるはずがない……。ミレニアだけでなく、その場にいたほぼ全員が同じ事を考えた。例外は、ルシアとテレサ、それにポテンティアくらいのものだ。ワルツたちと四六時中行動を共にしているアステリアとマリアンヌですら、ワルツが作ったただの棒では、大剣と斬り結ぶことなど無理だと考えるほどだった。
しかし、ワルツは言い切る。
「出来ないと思うなら、これを大剣で斬ってみれば良いと思うわ?ほら、確か訓練棟の倉庫に練習用の大剣があるわよね?」
ワルツは以前、チラリと大剣を見たことがあったらしい。その際は、取り回しの悪い大剣など、いつどこで使うというのか、と疑問に思っていたようだが、こういう時に使うのか、と自己解決したようだ。もちろん、剣の強度を確かめる際に使うものではない。
しばらくして、騎士科のジャックが大剣を持ってくる。彼の身長よりも大きな大剣だ。重さはそれほどでもないらしく、ジャックは軽々と、大剣と振り回している様子だった。ただ、あまりに剣が大きすぎたためか、彼が振り回していると、子どもが棒きれを使ってチャンバラをしているようにしか見えないのは、ワルツの気のせいか……。
「これでいいか?」
「……えぇ、いいわよ?じゃぁ、作った剣を持ってるから、思いっきり叩き斬ってちょうだい」
「やる前から結果は見えてる気がするけどなぁ……」
ジャックは大剣を振りかぶった。対するワルツも自作のフルーレ(?)を、ジャックが斬りやすい場所に突き出す。
そして——、
キーーーーンッ!!
——金属同士がぶつかって生じる甲高い音がその場に響き渡った。
結果、斬れてしまった——いや、折れてしまったのは——、
「うわっ……やべっ……」
——ジャックが手にしていた大剣の方だった。真ん中から真っ二つだ。練習用とはいえ、壊してしまえば、後で学院長辺りに怒られるのは間違いない。そのせいか、ジャックの顔から血の気が引いていく。
対するワルツの剣は、無傷——とはいかなかった。大剣がぶつかった場所からグニャリと曲がっていたようだ。大剣が脆いのか、ワルツの剣が強靱なだけなのか……。予想外の結果に、クラスメイトたちが驚きと戸惑いの表情を見せている中。更なる異常事態が皆の目の前で生じる。
ワルツが手にしていた剣が、見る見るうちに——、
グググググ……
——と元の形に戻ってしまったのだ。
当然の結果だ。何しろ、ワルツが即席で作り上げたフルーレ(?)は、自己修復効果を持った形状記憶合金を材料にしていたのだから。




