14.16-21 ワルツ先生4
ルシアに魔法剣の実演を頼んだ結果、ワルツを含めて、皆が「ん゛ー」と口にしながら難しそうな表情を浮かべる。何かすごいことをしているのは分かるのだが、何をしたのか、ルシア本人以外に分かる者はいなかったのだ。
ワルツは、一応、おおよそを察していたようだが、それでもルシアのデモンストレーションを魔法剣の例として採用すべきか迷ったようである。クラスメイトたちに真似させることを考えた時、技術的にも、魔法的にも、あまりに高度すぎたからだ。
「(参考にならないわね……)」
ワルツは思い悩んだ後で、結論を出す。今の妹のデモンストレーションは、シレッと流す事にしよう、と。
「えっと……まぁ、こんな感じで、剣と魔法を組み合わせることで、剣だけでは出来なかったこと、魔法だけでは出来なかったことが、色々と出来るようになるのよ」
ルシアの行動には極力触れずにワルツが話を先に進めようとすると、ミレニアが問いかけてくる。
「ワルツ……先生。魔法と剣を組み合わせた剣術というのは聞いたことがない……と言いますか、難しいのではないですか?」
「別に、先生なんて呼ばなくても良いわよ。でも、難しいって……どういうこと?」
「ルシアさんのあの剣術?は特別かも知れませんが、一般的な魔法使いは、体力が無いので、剣を振るうことさえ儘らないと思います」
と言って、チラリと後ろを振り向くミレニア。そこには、魔法科の学生たちがいたわけだが、皆、身体の線が細く、体力がありそうには見えなかった。ミレニアの言うとおり、金属で出来た剣を持ち上げることさえ儘ならないことだろう。
しかし、ワルツの方は、ミレニアに対する回答を持ち合わせていたようだ。
「重い剣を持とうとすれば、そりゃ無理でしょうね」
対するミレニアは、眉を顰める。
「えっ……軽い剣があるんですか?」
ミレニアは、軽い剣というものを見たことが無いらしい。工業技術、あるいは魔法技術的に、精錬や合金の知識が未だ発達していないこの世界において、軽い剣を作るというのは難しく、剣と言えば重い物であるというのが常識だからだ。
ミレニアの発言からそんな背景を察したのか、それとも別の理由があったのか……。ワルツは不思議そうにこう返答した。
「大剣とかは難しいと思うけれど、ルシアが使ったような細いレイピアなら振り回せるんじゃない?まぁ、あれも軽いとは言えないかも知れないけれど、少し身体を鍛えれば、すぐに振り回せるくらいの重さではあるわよね?(知らないけど……)」
断言はせずに、ワルツは回りくどく問いかけた。人ではないワルツ自身は、人の筋力の限界など知らないので、細い剣であるレイピアが軽いと言えるのか断定できなかったからだ。ちなみにルシアは、自分の身長よりも大きく、そして自分の体重よりも重い剣を軽々と振り回すことが出来るのだが、それは彼女が筋肉ムキムキの狐娘だから——というわけではなく、重力制御魔法を使えるからである。彼女は魔法で剣の質量を、無理矢理軽くしていたのだ。そのせいもあって、ワルツの中にある常識は、大体がルシア基準という非常識だったりする
まぁ、それはさておき。ワルツの言葉を聞いたミレニアは、ルシアが手にしたレイピアを見て、やはり冴えない表情を見せる。
「あの剣なら確かに振り回せるかも知れませんが……普通の剣と打ち合ったら、簡単に折れちゃいませんか?」
「んー、なるほど。確かに、そういう考え方もあるわね……」
他にどういう考え方があるというのか……。特別教室の学生たち皆が、同じような疑問を抱いている中、ワルツは彼らの事を気にする事なく、ルシアに向かって問いかけた。
「ルシア?突貫で剣を作るから、2種類の金属を精錬してもらえる?」
「えっ?ここで?別にいいけど……何と何を精錬すればいいの?」
「チタンとニッケル」
「ここの地面にあるかなぁ…………あ!そういえば……」
ルシアがそう口にした直後——、
ブゥン……
——という転移魔法特有の低音がその場に響き渡り、四角い固まりが2種類姿を見せた。チタンの塊とニッケルの塊だ。
「昨日、宇宙線を作ったときの余りがあったね!」
「ん?あぁ……手に魔法で家から取り寄せたのね。ネット注文もびっくりだわ……」
「えっ?」
「ううん。何でもない」
この世界には存在しないものを思い出して懐かしさを感じつつ、ワルツはルシアからチタン塊とニッケル塊を受け取って、それを手で——、
バキィッ!
——と、引き千切った。最早、彼女に自重など無い。皆が見ている前で、ワルツは硬そうな金属を、力技で引き千切ったのである。




