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14.16-18 ワルツ先生1

 というわけで午後。ワルツたちは学院内の訓練棟にやってきていた。


 ハイスピアが戻ってこない上、他の教師も割り当ててもらえなかったために、引き続きワルツが教師役を務めることになっていた。まぁ、正確には、マグネアのワルツに対する評価が異様に高かっただけであり、ワルツに任せておけば期待以上の成果が出る、と思われていることが理由である。もちろん、ワルツ自身はそのことを知らない。


「せっかくだから、一回やってみたかったことがあるのよね……」


 ワルツはそう言って木剣を手にした。何と言うことはない訓練用の木剣だ。彼女はそれを手に持ったまま、クラスメイトたちに対してこう口にする。


「今日は剣術と魔法を組み合わせた、実践的な戦闘の訓練をするわよ?」


 ワルツにそんな高度な技術を教える事は出来るのか……。彼女のことをよく知っているテレサ辺りは内心でそう思うが、他のメンバーに疑う様子はない。


 しかし当の本人は——、


「って言っても私に戦闘が出来るのか信じられない人が殆どだと思うから、試しに実演してみせるわね?というわけで、騎士科と魔法科の学生で、我こそは腕利きだ、って思う人、前に出てきて?まぁ、別に、全員で掛かってきてもいいけれど……あ、分かっていると思うけれど、ルシアだけはダメよ?」


——皆、自分の事を信じていないと思ったらしく、ワルツは実演してみせることにしたようだ。


 すると、騎士科を代表して、寡黙なラリーが前へと出る。魔法科からはミレニアが代表として立つようだ。


「騎士科はラリーなのね……」


「…………」


「相変わらず無愛想ね……。まぁ、良いわ。いつ掛かってきてもいいわよ?」


 ワルツはしたり顔で挑発した。木剣すら構えていない。


 対するラリーは、自分よりも遙かに背が低い——どころか、クラスの中で最も背の低いワルツが、自分の身長ほどはある木剣を振り回せるとは思えず、内心で戸惑っていたようである。しかし、相手はワルツ。何をしてくるのか分からなかったので、彼は本気で斬りかかることにしたようだ。最悪、怪我をさせてしまったとしても、回復魔法を使えば良いので、問題はないと判断したたらしい。そもそも、挑発してきたのはワルツなのだから、少しくらい痛い目にあうのも仕方ないとも考えていたようだ。


「……参る!」


「様になってるわね……」


 ラリーはワルツとの距離を一気に詰めた。その脚力には、筋力強化の魔法が掛けられており、周りの者たちには、ラリーが瞬間移動したかのように見えていたようである。


 そんな彼のことを見ていたジャックなど騎士科の学生たちは、「おぉ!」と声を上げる。というのも、ラリーの剣技は、騎士科の中で頭一つ飛び抜けており、目を見張るものがあったからだ。


 そんなラリーの体捌きを見たワルツは、高速思考空間の中で考え込む。


「(これは飽くまで訓練だから、下手にマウントを取ったり、変な対処をしたりしたら、ラリーのやる気を奪っちゃうことになるのよね。ここは手本になるような動きをすべきね)」


 そんな思考を1マイクロ秒以下の時間で行ったワルツは、ここでようやく自身の木剣に力を込める。持ち上げた木剣の剣先の速度は、音速を遙かに超えており、それだけでソニックブームが発生するが、ワルツは、木剣の質量もソニックブームも、重力制御システムを使って、無かったことにしてしまう。


 結果、ワルツは人の目で知覚不可能な速度でラリーの首筋に木剣をそっと置いた。いや、ギリギリの位置で止めた。行動開始からここまで、やはり1マイクロ秒。もしも直接木剣を当ててしまえば、その衝撃でラリーの首と胴体はお別れ状態になるので、ラリーの動きに合わせてゆっくりと木剣を移動させていく。


 ワルツにとっては非常に長い時間。しかし人にとっては、極めて短い時間。具体的には1秒が経った頃、勝負は決した。


「んなっ?!」

「「「……は?」」」


「あぁ、ようやく1秒が経ったのね……。機動装甲を纏っていても、このくらいの速度で動ければ良いのだけれど……」


 凄まじい勢いで切り込んだのはラリーのはず。しかし、結果的にラリーの首筋に木剣を当てていたのはワルツ。予想外の結果に、身内以外のクラスメイトたちが唖然とする。


「何だ……今のは……」


 寡黙なラリーであっても、流石に声が出てしまったらしい。それほどまでにワルツの剣技(?)は異常だったのだ。


 それも当然だった。剣技というものは、基本があって、様々な所作に洗練が必要なのである。ところがワルツの剣技(?)は、言ってしまえば、物理現象をねじ曲げて、相手が死なないように配慮するだけ、というもの。人に理解出来ない世界の話だったのだから。


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