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14.16-16 研究所16

 ハイスピアを医務室に運んだ後、教室に戻ってきたワルツは単刀直入に言った。


「さて……私たちは今、大変な問題を抱えているわ?」


 彼女がそう口にした瞬間、教室の中でざわめきが起こる。ワルツは今、月面研究所計画を進めようとしているのである。そんな彼女の発言は決して軽くはなく、皆に衝撃を与えるほどの重さがあった。


 ワルツは手を上げて、皆のざわめきを押さえた後。真剣そうな表情でこう言った。


「……私たちに授業を教えてくれそうな先生がいないのよ」


「「「……えっ?」」」


「さっき、医務室の先生に聞いてきたのよ。担任教師が倒れた場合、どうすればいいのか、って。そうしたら、なんて言ってたと思う?ウチのクラス、副担任が割り当てられていないから、ハイスピア先生が復帰するまで自習だってさ?」


「「「…………」」」


 そりゃそうだ。と、皆が思う。同時に、なぜその程度の事を、ワルツは大げさに言っているのか、とも。


 クラスを代表して、ミレニアが問いかけた。


「自習なのでしたら、自習をすれば良いのでは?それほど大きな問題には思えないのですけど……」


 ミレニアの言葉に、皆が頷く。


 対するワルツは微妙そうな表情を見せながら、こう返答した。


「ハイスピア先生がどうして倒れたのかは、皆、分かっているわよね?その上で自習をすれば良いと考えているのなら、私としては構わないのだけれど……ハイスピア先生は戻ってこられるのかしらね?」


 ハイスピアが倒れた理由。それは、ワルツが月に連れていったり、この世界には存在していなかった知識を教えたりした結果、知恵熱(?)を生じさせてしまい、倒れてしまった——ということになっているのである。詳細は多少異なるかも知れないが、結果的には同じだと言えるだろう。


 そんな担任教師が無事に戻ってきたとして、これまで通りに授業を教える事は出来るのだろうか……。また倒れることになるのではないか……。ワルツの副音声はそう語っていたようだ。


 クラスメイトたちも、ワルツが言いたいことはおおよそ理解したらしく、皆、ワルツと同じような表情を浮かべた。その際、皆が、同じ事を考えたようだ。……ハイスピアの代わりになるような、先生はいるのだろうか、と。


 そんな中で再びミレニアが口を開く。


「では、おば……学院長先生に、相談してみるというのはどうでしょうか?」


 彼女の指摘は真っ当だ。判断が下せないというのなら、もっと上位の責任者に質問すれば良いのだ。


 しかし、ワルツは首を横に振った。彼女には、マグネアが何と答えるのか、予想が出来ていたのだ。何しろ、当のマグネアが——、


「…………」にこっ


——テレサの隣に座って、ニッコリと笑みを浮かべていたからだ。どうやら、変身魔法と幻影魔法を使って、学生フィンになりすましているらしい。


 ゆえに、ワルツは「はぁ」とあからさまに溜息を吐いてから、ミレニアたちへと返答する。


「まず間違いなく、私たちに任せる、って言われるだけだと思うわよ?試しに聞いてみれば良いと思うわ?あと、今、学院長室には誰もいないはずよ?……どこで何をしているのかは知らないけれど」


 言葉の中に嫌味を5割ほど含ませながら、ワルツはそう口にするものの、フィンの表情から笑みが消えることは無く、ワルツのことをジッと見つめていたようだ。


 そんな彼女の視線の意味が分かったのか、ワルツはクラスメイトたちへと問いかけた。


「仕方ないわね……。おとなしく自習をするか、それか……私が代わりに授業をするか。選択肢は2つあるけれど、皆、どちらにする?まぁ、前者よね?私が授業をしても——」


「私はワルツさんの授業が聴きたいです」

「私も!」

「妾も聴いてみたいのう?」

「俺もそっちが良いな」

「ワルツ先生!よろしく!」

「わ、私も……」


 皆からの返答は、ワルツが講義をすべき、という意見が9割、他1割は無回答で、反対意見は0人だった。ちなみに、無回答1割というのは、普段から寡黙なラリーと、そもそも発言するつもりの無いフィンの2人だったので、実質クラス全員がワルツの講義に期待していたようである。


「……本当にやるの?」


 今になって不安になるワルツだったが、彼女の言葉に意見を口にする者は誰一人としておらず……。ハイスピアが戻ってくる、あるいは、彼女が意識を失っている間は、ワルツが担任教師を務めることになってしまったのであった。



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