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14.16-11 研究所11

 ルシアが土魔法で作った建物は、作成してそれで完成、というわけではない。窓も無く、灯火の類いや(ハッチ)もない、文字通りの箱モノでしかないからだ。


 ゆえに、簡易宇宙船の外は真っ暗。ワルツの転移魔法により、惑星アニアから空気は送られていているものの、光源と言えるものは簡易宇宙船に備え付けられた室内照明くらいのもので……。薄暗い空間がどこまでも続いているかのようだった。


 月に来た——というより、巨大な洞窟の中に迷い込んだと言えてしまいそうな光景の中、しかし、建物が構築されていく瞬間を目の当たりにしていたマグネアは、その場が月面であることを疑うことなく、周囲を見渡した。ルシアの土魔法によって、月の土が盛り上がっていく瞬間を見ていたので、疑う余地はなかったのだ。もう一言付け加えるなら、彼女はどこかの教師のように現実逃避もせず、目の前に広がる光景を素直に受け入れていたようである。


 そんなマグネアの興味は、月の土を使った建物の組成、の方ではなく——、


「こ、これに私たちは入っていたのですね……」


——彼女たちの後ろに聳え立っていた巨大な球体、簡易宇宙船の方に向けられていたようだ。一見すれば球状の建物で、無数に窓が取り付けられているという構造物。それを見てマグネアが興味を持ったのは、その()()からして、レストフェン大公国や学院の技術をもってしても、作る事ができない代物だと考えたからなのかもしれない。まぁ、実際、宇宙船を作成する技術など、ミッドエデンですら、ワルツやルシア無しには難しいのだが。


 対するワルツは、少し自慢げに、簡易宇宙線について説明する。


「えぇ、昨日の放課後に、ちょちょいと作ったのよ」


「き、昨日の放課後だけで……?」


「えぇ、別にこの程度のものを作るのに、そんなに時間は掛からないし。むしろ、人が乗っても大丈夫なのか、確かめる方に時間を割いたわ」


 この程度のものなど、誰でも作れるだろう、と言わんばかりの様子でワルツはそう口にする。言うまでも無く、ワルツとルシアの2人が揃って初めて出来る代物であり、誰でも作れるわけではない。


 一般常識的に考えれば、ワルツの言葉を鵜呑みにするような者は、そうそういないはずなのだが——、


「そうなのですね……」


——マグネアは、ワルツの言葉を一切疑うこと無く、受け入れてしまった。


 そんなマグネアの反応に、ワルツは逆に驚いてしまう。これまで会ってきた人々は、ほぼ全員が、ワルツの説明をすぐには受け入れることができなかったからだ。ワルツたちの行動に慣れ親しんだミッドエデンの者たちですら、最初はポカーンと口を開けたまま固まるか、驚くか、現実逃避をするか……。ワルツの説明を無条件に受け入れることはなかったのである。


 今や身内と言えるアステリアやマリアンヌなども、すぐにワルツの言動を受け入れられなかった者たちの一例だ。ルシアに巻き込まれる形でその場にやってきていた彼女たちは、簡易宇宙船の建造の瞬間を見ていた事もあり、簡易宇宙船の外見を見て驚くようなことはなかったが、その代わり、土魔法で建てられた建物の方に気を取られており——、


「「…………」」


——口を開けたまま、左右や上下を見渡して、ボンヤリとしていたようである。彼女たちもマグネアと同様に、月面に建物が作られる瞬間を見ていたわけだが、それでも彼女たちには、一瞬で建物が作られたという光景を受け入れることが出来なかったのである。


 一方で、マグネアの反応は、あまりに冷静だった。しかも、驚くポイントが、他の者たちとは異なっていた。自分なら作れるだろうか、と常に考えているかのようだった。


「ふーん、学院長先生は、建物の方にはあまり興味は無いみたいね?」


 ワルツはマグネアに問いかけながら、内心で考える。


「(さすがは錬金魔法の使い手、といったところかしら?作ろうと思えば、もしかすると、簡易宇宙船(ポット)や建物くらいなら作れちゃうのかも知れないわね……)」


 もしかするとマグネアは、月面研究所を作る上で、予想以上の戦力(?)になるかも知れない……。ワルツはマグネアに対する評価を内心で上方修正していたようだ。



zzz……。

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