14.16-10 研究所10
突然の出来事にマグネアたちは驚いた。地震が起こるというのは、レストフェン大公国ではあまりないことであり、彼女たちは急な揺れに慣れていなかったのだ。なお、言うまでも無いことかも知れないが、ここは月面であり、プレートテクトニクス関連による地震が起こるような場所ではない。
まぁ、それはさておき。次に窓の外で生じた出来事を見て、彼女たちは更に驚くことになる。
「天井が分厚いんだね」
「まぁ、空から雨の代わりに隕石が降ってくるような場所だからね。特に頑丈に作る必要があるのよ」
「ふーん。じゃぁ、頑丈に作っておくね?」
「そうしてもらえると助かるわ?もう、これでもか、ってくらい頑丈にお願いね?」
ワルツとルシアがそんなやり取りをしている内に、窓の外に壁が現れる。そう、壁だ。白い壁が地面から突き出るように生えてきたのだ。
それも、360度全方向に6枚。それらが轟音と振動を響かせながら真っ黒な空へと伸びていき、さらには簡易宇宙船を覆い尽くすように蓋をしてしまう。
その結果、周囲を静寂と暗闇が包み込んだ。まるで簡易宇宙船ごと何か巨大な生き物に飲み込まれてしまったかのようだ。
何が起こったのか理解出来なかったマグネアたちは、窓の外を眺めたまま、ただポカーンと口を開けることしか出来なかった。ワルツたちからの説明が一切、無かったことが大きな理由だ。
しかし、ワルツたちはまだ作業を続行するつもりらしい。
「あとは転移魔法陣を使って、地上の空気をこっちに持ってくれば……って、壁に穴が開いてたりしないわよね?」
「ポテちゃんが入ってこれるような隙間すら空いてないと思うよ?」
「うん。例えが絶妙ね」
ワルツは納得げに首肯すると、新たに転移魔法陣を展開した。それによって何かが起こった訳ではないが、ワルツには何が起こっているのか分かっているらしく、彼女は満足そうな表情を見せる。
「空気は大丈夫そうね」
「じゃぁ、外に行く?」
「えーと、まだダメね。月にも砂があるんだけれど、その表面ってすごく尖っているのよ。だから、吸い込んだり、目に入ったりすると、大変な事になるわ?だから掃除が必要ね」
「そうなんだ……。集めれば良い?
「まぁ、集めて捨てるしかないわね。上の階から下の階まで全部ね。でも、せっかく学院長先生たちを連れてきているんだし、まずはこの階だけやれば良いとお思うわ?っていうか、私がやるわね」
と、ワルツは口にするが、真っ黒な窓の外で何が起こっているのか見て取る事はできない。簡易宇宙船の外で何かが起こっていたとしても、分厚い壁のせいで、音までは伝わってこないからだ。
結果、置いてけぼり状態だったマグネアが、ワルツたちに対してようやく質問する。
「ワルツさん。何をされているのですか?」
「んー、敢えて言うなら、掃除?」
「掃除……いえ、今の状況を説明していただきたいのです」
「状況ねぇ……。今、私たちの状況はこんな感じよ?」
ワルツはそう言って、"エリア1"とタイトルが付けられた建物を魔導ホログラムディスプレイ(?)に表示する。建物は、半透明になっており、内部に球状の何かがあるようだった。
「今、私たちがいるのはこの球体の中。それで、外の景色が真っ暗になったのは、球体を包み込むようにエリア1の建物を建てたからよ?」
「た、建物を建てた……?」
「えぇ、ルシアの魔法を使ってね?」
ホログラム上に表示されていた球体は、建物の大きさから比べると酷く小さかった。ホログラムを鵜呑みにするなら、建物の大きさは、幅が1kmほどの大きさになるはず……。
「これ……とてつもなく巨大な建物ですよね?」
「大きい……のかしら?まぁ、準備も出来たし、試しに端から端まで歩いてみる?」
「えっ?」
マグネアが耳を疑うように目を丸くした直後——、
ブゥン……
——彼女たちは、見知らぬ床の上に立っていた。ワルツが転移魔法陣を使ったのだ。
そして彼女たちの目の前に、無数の窓が取り付けられた巨大な球体——簡易宇宙船が現れる。さきほどまでホログラムディスプレイで見ていた球体だ。
ようするに——、
「お月様にようこそ?って言えば良いのかしら?」
——彼女たちが立っていたのは簡易宇宙船の外。月面だったのである。まぁ、月面は月面でも、ルシアが作ったばかりの建物の中だが。




