14.16-02 研究所2
いったいどこでどうやって聞き耳を立てていたのか……。ワルツたちが学院にやって来ると、ポテンティアが説明していた通り、特別教室における伐採作業は打ち切りでもいい、という話を担任のハイスピアが口にする。
しかし、グラウンドには、未だ大量の大木が残っており、どんなに急いでも作業完了までに、あと3日ほどは掛かりそうな様子。急に作業をやめても良いと言われたワルツたちは、困惑したようである。今のままで作業を放置すれば、グラウンドが使い物にならないのだから、当然の反応だと言えるだろう。
特別教室全体が困惑に包まれている中で、ハイスピアがもう二言追加する。
「木材の運搬に使っている機械ですが、ちょっとお借りしますね。他のクラスの生徒や教員にやらせてみようと考えています」
順調に伐採作業が進んだせいか、特別教室から別のクラスへ、作業のバトンタッチをすることになったらしい。
「えぇ、それはいいけれど、大丈夫?」
ワルツは思わず問いかけた。ここまで大きな怪我人を出すことも無く作業を行えたのは、彼女たちが遠巻きに生徒たちのサポートをしていたからである。それが無くなることで、大事故が起きないとも限らない——どころか、ほぼ確実に大事故に発展する確信がワルツにはあったらしい。……なお、木材運搬車の所有権はテレサが持っていたのだが、彼女はワルツの決定に従うつもりだったらしく、反論することは無かったようだ。
ワルツが事故の発生を心配していると、頼れる人物が彼女の懸念を払拭した。
『まぁ、そこは僕らで見るので、大丈夫ですよ。何でしたら、皆さんが寝ている夜の内に、全部片付けておくことも可能です』
そう口にしたのはポテンティアだ。もしもの時は、分体たちを使って生徒たちを守れば良い、というわけだ。むしろ、分体たちだけで十分だった、と言うべきか。
「なるほど……。まぁ、見守りだけで良いんじゃない?」
『承知しました』
「というわけで、先生。伐採作業は他のクラスの生徒に任せる、という方向でお願いします。分からないことがあれば聞いて下さい」
そんなやり取りだけで、特別教室の伐採作業は終わってしまう。ハイスピアの方も、あっさりと納得した様子で、教室から出て行った。他の教師やマグネアの所に、報告をしに行ったようだ。
一方で、他のクラスメイトたちの方は、少し納得がいかない様子だった。
「ちょうどコツが掴めてきたところだったんだけどなぁ……」
「何だかんだ言って、充実してたわね……」
「全部やりきりたかったんだが……」
まだ作業は半ば。ゴールも見えつつあったので、途中でリタイアという形になり、あまり気分が良くなかったらしい。
そんな生徒たちの呟きを聞きながらも、ワルツは特に説明するようなことはしない。彼女はただ、静かにハイスピアが戻ってくるのを待っていたようである。彼女の様子を傍から見る限り、すべてを知っていて、敢えて黙っている、といった様子だった。
しかし、内心では——、
「(先生……早く戻ってきてよ……)」
——と焦っていたようである。これから行われるだろう授業の内容を考えると、クラスメイトたちに対して下手なフォローはできなかったのだ。
そもそも、ワルツは、これから行われる授業のことを知らなかった。マグネアや彼女が選出した者たちと共に月面研究所を作るという計画は、授業の中で行われるのか、判断が付かなかったのだ。もしも、授業に入らず、放課後の課外活動的に行われるとなった場合、今ここで説明するというのは悪手。思い込みで発言する訳にはいかなかった。
ゆえに、彼女は、どこかの令嬢よろしく、静かに目を瞑ってハイスピアがやって来るのを待っていた訳だが——、
ガラガラガラ……
——教室に戻ってきたのはハイスピアだけでなく——、
「皆さん、おはようございます」
——やはり、と言うべきか、マグネアの姿もあったようである。どうやらマグネアは、ワルツの予想通り、特別教室の生徒ごと、月面研究所計画に巻き込むつもりらしい。




