14.15-34 箍19
完成した簡易宇宙船を前に、満足げな表情を見せていたワルツに対し、彼女とは対照的に酷く心配そうな表情を浮かべていたテレサが、問いかける。
「……のう、ワルツよ」
「何?」
「これを宇宙に持っていくのは良いのじゃが、安全性の確認は誰がするのじゃ?」
ポットを造ったはまでは良い。転移魔法を使えば長距離の移動も可能なので、転移そのものも"おそらく"問題は無い。問題は、中に人が入って宇宙に行って、そして無事に帰ってこられるのか、という点だった。これまでワルツは転移魔法陣を使って、レストフェン大公国とミッドエデン共和国の間を何度も移動してきた経験はあるものの、惑星の大気圏を越えた向こう側に転移魔法で移動した経験は無かった。行ったは良いが、宇宙で迷子になり、戻ってこられなくなる可能性は十分考えられたのである。
しかも、転移先は、惑星の周りをグルグルと回っている月面を想定しているのである。理論上は動いている物体の上に転移できるとは言え、ぶっつけ本番で転移するというのは、かなりリスクの高い行動だと言えた。むしろ、自殺行為と言っても良いかも知れない。最悪の場合は、転移した先で、月と衝突——もとい、月に墜落する可能性も考えられた。
そのことは、ワルツも認識していたらしい。
「あぁ、それね。テレサがテストパイロットをやってみr——」
「良いのかの?!」キラキラ
「……って冗談でも言えないのよねぇ」
「え゛っ……」
「貴女の場合、たまに本当に事故って死んじゃうし……」
「「えっ」」
ポテンティアたちの手伝いをしていたアステリアとマリアンヌの声が重なる。2人とも、ワルツとテレサの会話を聞いていたようだが、どうやらその中に、何か理解出来ない単語が含まれていたらしい。
とはいえ、ワルツやテレサが、アステリアたちに対して事情を説明するようなことはしない。説明するつもりが無い、というわけではないが、ワルツたちが説明する前に、とある人物が血相を変えて声を上げたからだ。
「ダメ絶対!」
「ア、ア嬢?」
「テレサちゃんがテストなんとか、ってやつをすると、テレサちゃん、また死んじゃうからダメ!」
「いや、死ぬと決まったわけj——」
「絶対ダメ!テレサちゃんがやるくらいなら、私がやる!」
声を上げたのはルシアだった。どうやら彼女は、"テストパイロット"という言葉に、一種のアレルギーのようなものを抱えているらしい。特に、テレサがテストパイロットをするという話となると、なおさらに大きな拒否反応を感じてしまうようだ。ルシアからは、テレサがテストパイロットになることを絶対に止める、という強い意志が滲み出ていた。
対するテレサは、慌てた様子で、ルシアに向かって反論する。
「いやいや、待って欲しいのじゃ。ア嬢。今の妾なら、宇宙でも活動できるはずなのじゃ。じゃが、ア嬢はそうではなかろう?」
しかし、よく考えてみると、やはり無茶ではなかろうか……。などと考えつつ、宥めるように問いかけるテレサ。
そんな彼女の指摘にルシアから帰ってきた言葉は、テレサの予想通りの回答だったようだ。
「私は魔法が使えるから、自分で自分の身を守ることくらいできるもん!」
「(ふむ…………冷静になって考えてみると、妾とア嬢とで、そう大差は無いか……)」
例え真空や宇宙線に曝されながら、どうにか生き残ったとしても、自分自身を転移させる魔法が使えない以上、自分もルシアも、何か問題が起こったら、結局は帰ってこられなくなるのではないか……。テレサがそう考え込み、ルシアが頬を膨らませ、そしてアステリアとマリアンヌが顔を見合わせていると——、
「えーと……いいかしら?」
酷く言いにくそうな様子で、ワルツが口を開く。
「テストをするのに、人を乗せるつもりは無いわよ?テレサの事も、ルシアの事も、ね」
「「えっ?」」
「いや、だって、別に人を乗せなくても、データは取れるし……」
と言いつつ、その場の地面に置いてあった箱を持ち上げるワルツ。彼女が持ち上げた箱は一見してただの箱のように見えて、6面に小さなカメラが取り付けられており、内部には加速度計や記録装置、あるいは気圧計など、人が生存できるかを確認するための機器が入っていた。
「ようするに、転移した先で衝突が起こったり、空気が抜けたり、放射線が降り注いだり……想定しない動きが起こらないことを確認できれば良いだけなのよ。だから、別に人が直接行ってテストをする必要なんて、どこにも無いのよ」
そんなワルツの言葉に——、
「さよか……」ガクッ
「そりゃそっかぁ……」ほっ
——とテレサとルシアは納得した様子だった。
ただ、事情が良く理解出来ていないアステリアとマリアンヌの2人は、完全に蚊帳の外といった様子で……。2人は、ワルツたちの会話が、呪文か何かのように聞こえていたようである。
書き方を変えたいと思う今日この頃なのじゃ。




