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14.15-31 箍16

 その後、マグネアのことを学院に転移魔法陣で帰してから……。月面研究所もとい月面コロニー建造の実務部隊(?)による具体的な作業が始まった。ワルツとルシア、それにポテンティアによる月面コロニーの部品作成だ。


 場所はポテンティアの格納庫で行われることになった。格納庫は、空中戦艦の姿に戻ったポテンティアが一隻丸ごと入るほどの大きさだったので、巨大建造物の建築に都合が良かったのだ。


 具体的な作業内容は、施設全体の設計図を頭に入れているワルツの指示の下、ポテンティアが素材を基地内に運び入れ、ルシアが魔法で精錬・加工を行うという方法で行われた。工房を作る際のいつもの方法だ。普段と違うのは、作業にポテンティアが参加していることくらいだ。


 一方、同居人たち3人は、ただ見ているだけという状況に陥ってしまう。強力な魔法を使えるわけではないアステリアとマリアンヌ、そしてモノづくり向けの魔法を持たないテレサたちは、ポテンティアの格納庫の端の方に机と椅子を用意して、そこでワルツたちの作業を眺めていた。


「……率直に言って、暇なのじゃ」


「まぁ、あの作業に参加するのは、ちょっと難しいですよね」


「私たち……ただの穀潰しですわね……」


「「…………」」


 マリアンヌの発言に、テレサとアステリアが閉口する。どうやら二人とも、自分たちがワルツたちの行動に関与できていないという自覚があったらしい。


 今回に限った話ではない。これまでワルツとルシア、それにポテンティアがしてきた行動に、テレサたちはこれと言って介入ができなかったのである。そのことを思い出すと、3人とも頭が重かったらしく、皆、思わず頭を抱えてしまう。


 かと言って、他に何かができる訳でもなかった。炊事洗濯の類いは、別のポテンティアや、ミッドエデンからわざわざ出張してきたイブが片付けてしまうので、やはり出来る事は何も無く……。


「困ったのう……」


「何か出来る事……何か出来る事……」


「……お手上げですわ」


 3人とも、ワルツたちの行動を眺めながら溜息を吐いた。


 そんな中、テレサがポツリと呟く。


「そういえば、ワルツはなぜ、マグネア殿のことを引き入れようと思ったのかのう?」


 ルシアに比べれば、学院の教師レベルの力では、無いにも等しいはず……。結果的に、今の自分たちと同じように、遠くから見ていることしか出来ないのではないか……。テレサはそんなことを考えたらしい。


 彼女がそんな考えに陥るのも仕方がないと言えた。何しろ彼女は、友人のフィン——錬金魔法を使える彼女の正体がマグネアであることを知らないからだ。


 ゆえに、彼女は思う。


「マグネア殿を引き入れるくらいなら、フィン殿を引き入れれば良いのにのう……」


 テレサがそう口にすると、他の2名は微妙そうな表情を見せた。というのも——、


「あの……テレサ様?」

「その……フィンという方は本当に存在しますの?」


——アステリアもマリアンヌも、フィンのことを見たことが無かったからだ。テレサはいると言うが、フィンもといマグネアは、幻影魔法を使って学生に化けている上、そもそも姿を隠しているので、他の誰も見たことが無いのである。ワルツとポテンティアは正体を知っているが、2人が他の者たちに、フィンの正体について話す事は無かったので、アステリアたちからすると、"フィン"とは架空の存在としか思えなかった。


「……さては、2人とも、妾のことを疑っておるの?」じとぉ


「えっと……すみません。私もマリアンヌ様も、そのフィンというクラスメイトを見たことが無いのですよ……」

「そうですわ。あまりこう言うのも気が引けますけれど……テレサ様がフィンという方とお話をされているときは、テレサ様は虚空とお話をされているようにしか見えないのですわ……」


「妾……そんな風に見えておるのか……」げっそり


 アステリアとマリアンヌから、自分の姿がどう見えているのか説明されても、それでもテレサはフィンの存在を疑わなかった。ゆえに彼女は思う。


「(どうやったら、フィン殿の存在を証明できるのじゃろうか……)」


 と。


 先ほどまで、すぐ近くに"フィン"がワルツと会話をしていた事に気付かないまま、テレサは頭を抱えるのであった。


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