14.15-30 箍15
ルシアたちがワルツの地下工房に戻ってくると、ポテンティアが5人ほどに増えて、せっせと荷物運びをしていた。マグネアがワルツの計画に一枚噛むことがほぼ決まったので、早速拡張しようとしていたのだ。
そんなポテンティアたちの姿を見たルシアたちは、これまでにもポテンティアが何人もいる瞬間を見たことがあったためか、特に大きな反応を見せることは無かったようだ。ただし、約一名を除いて。
「んなっ?!」
「あー、学院長先生は、ポテンティアがたくさんいることを知らなかったわね。ポテンティア?自己紹介頼める?」
『『『『『あ、はい』』』』』
5人のポテンティアが一旦荷物運びを中断して、マグネアの前に集まってくる。
いや、やってきたのは5人だけに留まらない。一つ上の階にある住居からもゾロゾロと、同じ顔、同じ体型、同じ服装のポテンティアが集まってきた。
その数、およそ30名。マグネアは思わず絶句する。
『僕らは一人で全員』
『僕らは全員で一人』
『僕らは複数いるように見えると思いますが』
『僕らは一人一人がポテンティアであり』
『そしてただ一人のポテンティアでもあるのです』
『ようするに、誰に話しかけても、みんなに伝わりますので、今まで通りに話しかけて下さい』
『『『『『不束者ですが、よろしくお願いいたします』』』』』
そう言って、30人全員で一斉に頭を下げるポテンティア。その後、彼らは、まるでクモの子を散らすように——いや、実際、一部のポテンティアは、身体の構成を崩して散り散りになり、それぞれの仕事に戻って行った。
そんなポテンティアのことを横目に見ながら、ワルツはマグネアへと補足する。
「彼って、一人一人が、小さな機械の集合体なのよ。それが集まって意識をもって、人の形をしているってわけ。たまに……っていうか頻繁に、黒い虫の姿をしていることがあるから、踏んづけないように注意してね?」
「 」
「……?学院長先生?マグネア?」
「ハッ?!」
どうやらマグネアは、短い時間、意識を失っていたらしい。大抵の人間は、ポテンティアの正体を知ると、似たような反応を見せるので、ある意味、正常な反応だと言えるだろう。異常なのは、ポテンティアの方である。
「す……」
「……す?」
「素晴らしい……」
「「「「「えっ」」」」」
ワルツたちはマグネアの感想を聞いて、耳を疑った。ポテンティアの正体について、素晴らしいと感想を口にする人物はこれまで誰一人としておらず、まさか受け入れられるとは思ってもいなかったのだ。
そんなマグネアに対して、ワルツたちは一斉に背を向けて、本人に聞こえないほどの小声で会話をする。
「(マグネア……ショックのあまり、頭がおかしくなったのかしら?)」
「(多分、現実が受け入れられなかったんだね……)」
「(いやいや、研究者の性じゃろ)」
「(広い心をお持ちなのですね……)」
「(……ポテ様の良さを本当に分かっているのかしら?)」
「「「「(……えっ?)」」」」
一部に不可解な発言をする者がいることに疑問を感じつつも、ワルツは本題へと話を戻す。
「それで、どうだった?空の上は。ちky……この惑星は丸かったかしら?」
質問を向けられたマグネアは、再びハッとした表情を浮かべた後、肩を竦めた。今まで自分が持っていた常識を覆されたことに自嘲しているような表情だ。
「……まったく、あなたといると、常に考えてしまいますよ。自分がどれだけ間違った知識を持っていて、これまでどれだけ無駄な生活をしてきたのか、とね」
「それは良かったわ?いや、良くないのかしら……。まぁ、いいわ。それで月面の研究所についてなのだけれど——」
ワルツはそう言って、モニターに映した情報について、より詳しく説明していった。最初は月の全景を。そこから段々と月の表面を拡大していき、最終的に、研究所の外観を表示させる。
それは最早、研究所と言うには大きすぎて、"月面コロニー"と言えるほどに大きいものだった。なにしろ、空中戦艦エネルギアが、丸々100隻以上は入れるほどの大きさなのだ。それも、地表面の施設だけで。
地表だけでなく、地下まで広がっているというのだから、マグネアは改めて驚いたようである。ワルツはそこで、いったい何を作ろうとしているのか……。疑問に思うマグネアだったものの、ポテンティアのような存在を造る(?)人物の考えを理解出来るはずもないと考えたらしく、彼女は深く考えるのをやめたようである。
なお、ディスプレイに映る研究所の大きさが、具体的にどのくらいの大きさになるのか、比較対象が表示されていなかったので、マグネアには正確な大きさを想像はできていなかった模様だ。




