14.15-29 箍14
「んー、なるほど。これが、オーバーテクノロジーってやつを見た人たちの反応なのね……」
「えっと、お姉ちゃん?多分、みんな、理解出来てないだけだと思うよ?」
ディスプレイを眺めながら固まるマグネアたちを横目に見ながら、ルシアは姉の呟きにツッコミを入れた。ルシア自身は、実際に宇宙に行ったり、自分の魔力で飛べたりするので、ワルツの言っていることを理解していたが、客観的に見ると、ワルツが呪文を言っているようにしか思えなかったようだ。……空中に浮かぶディスプレイや、そこに表示される天体の位置も含めて。
「そう?じゃぁ、どうやって説明すれば良いと思う?」
「実際に見せれば良いんじゃないかなぁ?」
「いきなり月面に行くのは、居住スペースとか作っていないから、まだ厳しいから……いや、でも、簡易的なポットか何かで宇宙を見せるって言うのも、それはそれでトラウマになりそうだし……」
普段通り、ワルツが優柔不断を発症している中、彼女の呟きを聞いていたルシアが動く。
「宇宙まで行かなくてもいいから、空の高いところから見下ろせば、分かってくれると思うよ?」
と言って、ルシアは、マグネアとアステリア、それにマリアンヌを空中に浮かべた。どうやら彼女は、実際に3人のことを、成層圏まで浮かべてくるらしい。その際、テレサも巻き込まれていたのは、十中八九、故意だろう。
「なっ?!」
「きゃっ?!」
「ひっ?!」
「…………」げっそり
「じゃぁ、ちょっと行ってくるね?」
そう言ってルシアは、3人を浮かべて、階段の上へと消えていった。
そんな妹たちの後ろ姿を見送りながら、ワルツは呟く。
「外に出るなら、湖に直結した転移魔法陣があるのに……」
ワルツはいつの間にか、地下の工房から地上の湖に転移するための魔法陣を準備していたらしい。普段はエレベーターを使って移動するので、緊急避難口、といったところだろうか。
やれやれ、と肩を竦めるワルツに対し、一人取り残されていたポテンティアが話しかける。
『ところでワルツ様』
「何?ポテンティア」
『その転移魔法陣ですが、僕にも教えて頂けないでしょうか?』
「転移魔法陣を?んー、まぁ、別に悪用しなければ良いけど…………本当に悪用しない?」
『えぇ、もちろん。転移魔法が使えれば、分体たちを集めるのも、広めるのも短時間で行えるようになりますから、是非、使わせて欲しいのです』
「まぁ、それなら構わないけど……魔力はどうするの?貴方、魔法を使えないわよね?それとも使えたっけ?」
『……実はですね……』
そんな前置きをしてから、ポテンティアはワルツに対し、事情を説明した。
すると、それを聞いたワルツは、目を開き、「え゛っ」と言いながら固まってしまうのだが……。そんな2人の会話は、誰にも知られること無く、地下の工房の中だけで消えていくのであった。
◇
一方、その頃。
「「ひやぁぁぁっ?!」」
『良い空気ですが、段々寒くなってきましたね……』
「あぁ、ごめんね。空気の壁を作るね」
ルシアたちは、空を急速に上昇して、500m付近を垂直に移動していた。
その際、マグネアとマリアンヌが上げていた声は、絶叫マシンの乗客そのもの、といった様子で、手も足も地面に付いていない状況に、悲鳴を上げていたようである。彼女たちにとっては、紐の無いバンジージャンプに近い状況だったと言えるのかも知れない。ただし、落ちる方向は、下から上だが。
対してアステリアは冷静だった。借りてきた猫といった様子で、四肢を投げ出していたようである。ただ、冷静を装っているのか、それともルシアの重力魔法の影響で魔力がかき乱されたせいなのかは不明だが、彼女は黒い大狐の姿に戻っていたようだ。変身魔法を維持する余裕が無くなっていたらしい。
そんなアステリアの姿を見て、約一名、目を輝かせながら、手をワキワキと動かしている者がいたようだが……。まぁ、彼女については置いておこう。
そんな4人(3人と1匹?)は、段々と高度を上げて、雲を抜け、青い空が広がる場所までやってきた。空の色はより青く、そして太陽の輝きはより眩しくなる——そんな場所だ。
そこから見える景色に展望を妨害するものは無く、遙か遠くまで見渡すことが出来た。そんな光景を前に、先ほどまで騒いでいたマグネアたちも黙り込み……。そして彼女たちはポツリと呟いたのである。
「世界というものは……」
「確かに、丸いのですわね……」
と。




