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14.15-26 箍11

「   」


 マグネアは、呼吸を止めてしまう。それほどまでに、目の前に広がる光景が信じられなかったのだ。


 天井と床、それに四方の壁を、隙間が無いほどに敷き詰められた白色ELパネル。カシャカシャと音を立てながら勝手に動く様々な機械。時折、大きく動いて、部品を運ぶアームのような機械などなど……。ワルツの工房には、異世界における"異世界"と呼べるような光景が広がっていた。


 たっぷり1分ほど息を止めていたマグネアは、ようやく我を取り戻したのか、「ぜぇはぁ」と大きく呼吸を再開してから、震える手を前に出し、機械を指差しながら、こう言った。


「なん……なんなのですか?!これは……」


「何って、作りたいものを作るための機械たちよ?」


「魔力がまったく感じられn——」


「そりゃ、魔力で動いていないからね」


 何を当たり前のことを言っているのか……。と、思わなくもないワルツだったが、この世界では魔力で勝手に動く機械(ゴーレム)はあっても、電力で勝手に動く機械(マシン)は無い事を思い出す。


「これらは電力で動く機械よ?まぁ、その電力は魔力で発生させているのだけれど……」


 そう言ってワルツが視線を向けた先には、何やらパイプやらタンクやらが複雑に組み合わされた、一見してガラクタのような物体が置かれていた。部屋の中にあったすべての機械に繋がれた電線は、すべてその"ガラクタ"に接続されており……。"ガラクタ"の中では、何か眩い光が明滅しているようだった。それも紫色の光——所謂紫電が。


 それはワルツが作成した魔導発電機だった。ルシアが作ったアーティファクトを魔力源にして、転移魔法陣を発動し、電子のみを移動させる事で電位差を発生させ、電力を作り出すという代物である。エネルギーの変換効率は不明だが、一応、動いてはいるので、ワルツとしては、満足出来る代物だったようだ。この異世界に来て、長らく魔力の"マ"の時すら操る事の出来なかった彼女にとっては、大きな進歩と言える発電機である。


「あれが魔力から電力を作り出す機械よ?もっと改良できれば、より大きな出力が出せるのかも知れないけれど……まぁ、電力の仕組みとか、モーターの仕組みを説明しても、すぐには理解出来ないだろうから、その話は追々するわね?まぁ、だけど——」


 ワルツはそこで一旦話を切って、そしてマグネアの方を振り向いてこう言った。


「私たちに協力してもらえないなら、教えられないけれどね?」


 そんなワルツの発言に、マグネアはゴクリと喉を鳴らす。根が研究者である彼女のにとって、目の前の光景は、文字通り垂涎の的。すべてを投げ出しても手に入れたい代物だった。


 ただ、マグネアはワルツが無償で技術を提供してくれるとは思っていなかったようである。対価を要求されるはずだ、と。


「……つまり、これらの技術を教える代わりに、自動杖の技術を教えろと言うのですね?」


 ワルツは学院に入学する際、自動杖の技術を欲している、と明言していたのである。ゆえに、彼女が欲しているのは、自動杖の技術のはず……。マグネアはそんな予想を立てて、ワルツに問いかけた訳だが、ワルツから帰ってきた返答は、思いもよらぬものだった。


 というより、返答すら戻ってこなかった。ワルツは何を思ったのか、マグネアの前で人差し指を立てると——、


   ボウッ!


——その指の先端に炎を作り出したのだ。


 ワルツが作り出したものは、指先に形作ったミクロな転移魔法陣を使った炎。転移魔法陣は極めて小さかったために、傍から見ればワルツが炎を作り出しているように見えていた。


 その炎を前に、マグネアが首を傾げていると、ワルツはようやく口を開いた。


「実を言うと、自動杖の技術はいらないのよ」


「……はい?」


「過程は違うかも知れないけれど、同じ結果が得られる別の方法を見つけちゃったから」


 そう言って、5指を開いて、それぞれの指の先端に炎以外の現象を顕現させるワルツ。具体的には、氷魔法、水魔法、土魔法、雷魔法をそれぞれ再現する。5魔法の同時展開だ。まぁ、正確には、魔法は転移魔法だけであり、彼女の指先で生じている現象は、ただの物理現象なのだが。


 それでも、マグネアの口から言葉を取り去るのには、十分な効果を持っていたようである。マグネアは、口をパクパクと動かすのがやっとな様子で、ワルツの5指を眺めるしかない様子だった。


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