14.15-25 箍10
サブタイトルのナンバリングが間違えておったゆえ修正したのじゃ。
「……ワルツさん。率直に言いますと……あなたが何を言っているのかよく分かりません」
突拍子のなさ過ぎるワルツの提案に、学院長のマグネアは、やはり理解が追いついていないようだった。
「どうやって月に行こうというのですか?月の表面に研究所を作るなど可能なのですか?そもそも月とは何なのです?」
マグネアの口からマシンガンのごとく疑問が放たれる。
対するワルツには、その疑問のすべてに答えるつもりは無かったらしい。彼女は言いたいことだけを口にする。
「まぁ、色々思うことはあると思うけれど、研究所自体は私の方で建てるわ?あと移動手段についても、こちらで準備する予定。問題は、人員なのよ。色々な研究やモノづくりがしたいのだけれど、私たちだけじゃ手が回らなくてさ?」
「…………場所を提供するから、研究をしろというのですか?」
「場所だけじゃ無くて、資金も物資も提供するつもりよ?もちろん、いつでも好きなときに地球……じゃなくて、この惑星アニアと月を行き来できるようにするゲートも用意するつもり」
「…………」
夢物語のような発言を口にするワルツを前に、マグネアは半信半疑だった。それも"疑"が大半を占める半信半疑だ。"半"とは言わないかも知れない。
それでも彼女は、ワルツの発言を一蹴できなかった。ワルツ——もといミッドエデンは、実例として、エネルギアという巨大空中戦艦を運用しているので、その技術を応用すれば、月に行けないことはないのではないか、と頭のどこかで考えていたのだ。
そして何より、マグネアには、ワルツのとある言葉が気になっていた。
「……ゲートというのは何なのです?」
月と惑星との間を行き来するために使用するという"ゲート"とは何なのか……。初めて聞く言葉に、マグネアは疑問を抱いたらしい。
そんな彼女は、マグネアとしても、フィンとしても、ワルツが転移魔法陣を使用している瞬間を見た事が無かった。もしもワルツが転移魔法陣を多用していると知っていたなら、彼女はすぐにゲートが何なのか、推測でいていたはずだ。
対するワルツの方は、転移魔法陣の悪用を怖れて、マグネアに詳しくを説明するつもりは無かったようである。学院の至る所に転移魔法陣は存在するものの、転移魔法陣として運用している箇所は限定されていて、模写されても流用も悪用もされないはずだったが、念のため伏せておくことにしたらしい。なにしろ相手は、魔法の研究者。詳しく調べられれば、転移魔法陣だとバレないとは言い切れないのだから。
それゆえの転移魔法陣だった。ワルツはわざわざ転移魔法陣を隠蔽するために、魔道具もどきを作成したのである。
「はい、これ、ゲート……のコア」すっ
ワルツがどこからともなく取りだしたものは、大きなサイコロのようなものだった。サイコロと違う点は、すべてが金属で出来ているという点だ。中には小さな転移魔法陣が内包されていて、半径2mほどの範囲にいる者たちを別のゲートに転移させるという機能を持っているが、外から中を調べる事は不可能。まさにブラックボックスだった。
「これを使えば、この世界の好きな場所——極端な話、月にでも太陽にでも行けるわ?下手をすれば、その外側にも、ね」
ワルツが手にしたゲートコアには、転移魔法陣の他に、厳重に梱包されたルシア製アーティファクトも仕込まれていた。ゆえに、人程度の質量を転移させるのなら、使用回数は半無限。恒星間移動は困難だとしても、太陽系外に移動することも不可能ではなかった。
まぁ、それはさておき。
「……やはり、俄には信じられません」
マグネアには、すぐに受け入れられなかったようである。
そんなマグネアを前に、ワルツはとある行動に出る。普段の彼女であれば、マグネアの意向を聞いてから、進退を決めるはずだが——、
「まぁ、いいわ。じゃぁ行きましょうか?」
——マグネアに有無を言わさず、彼女の隣に立って——、
ブゥン……
——転移魔法陣を起動させたのである。説明が面倒になったらしい。説明するくらいなら、実際に体験して貰った方が早い……。ワルツはそう判断したのだ。
その結果、マグネアとワルツは転移することになったのだが——、
「ちょっ?!何を…………え゛っ」
「「「「『えっ』」」」」
——転移魔法陣の行き先は——、
「ようこそ、マグネア。ここが私の工房よ?……まだ月には無いけれど」
——ワルツの自宅地下にある工房だった。




