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14.15-23 箍8

 天動説、地動説はひとまず横に置いておくとして、数学の知識だけで惑星アニアと月との距離を算出しているらしいアステリアとマリアンヌ。そんな2人にワルツは驚きと共に心配を抱えるものの、自分の計画を曲げるつもりは無かったのか、思考の中から心配だけを振り払う。尤も、彼女の決定に気付いた者は、今のところ誰もいなかったようだが。


「問題は、物資の供給と人手ね……」


 モニターに映る丸い物体——月を見つめながら、ワルツはポツリと呟く。


 月に工房を建てるにしろ、地上に工房を建てるにしろ、物資の供給と、そこで働く人間は、絶対に必要になるのである。もちろん、ワルツ一人で機動装甲を作ることも不可能ではないが、時間が掛かるのは目に見えていた。


 更に言うなら、彼女の機動装甲を皆で作るなど、不可能に近い事だった。そこにいるメンバーだけならまだしも、"人手"を集めて作業を行うとなれば、報酬を払わなければならないのである。しかし、一文無しに近いワルツには払える報酬は無い。もちろん、金鉱を探り当てて採掘し、資金源にすることも可能だったが、ワルツにそのつもりは無かったようだ。


「……ちょっと今から学院に戻りましょうか」


「「「「『えっ?』」」」」


 せっかく帰ってきたばかりだというのに、また登校するのか……。ワルツ以外の5人が驚きと共に疲れたような表情を浮かべる。


「あぁ、私だけで行ってくるから大丈夫よ?転移魔法陣があるし……」


 ワルツはそう言うと、空中に銀色のインクを浮かべる。そして彼女はそのままインクの向こう側へと姿を消した。


 そんなワルツの事を見送ってから、ルシアはポツリと呟いた。


「お姉ちゃん、意外に、行動力があるよね。でも、無いときは無いし……。なんていうか、ムラがある?」


 テレサもルシアの呟きに頷いた。


「本人は否定しておるが、思い立ったらすぐに行動するというのは、普通出来る事では無いと思うのじゃ」


 そんな2人の他、ポテンティアやアステリア、それにマリアンヌもコクリと頷いていて……。本人曰く"コミュ障"というワルツの行動に、皆、首を傾げざるを得なかったようだ。


 それはそうと——、


「ところで、ワルツ様は、なぜ学院に戻られたのでしょうか?」


——アステリアが疑問を口にする。ワルツは、今から学院に戻る、とだけ言って、その場を去って行ったのだ。その言葉だけでは、アステリアには理由が分からなかったらしい。本来であれば、どうやって月に行くというのか、と疑問に思う場面のはずだが、ワルツがやると言っているので出来るのだろう、と反射的に納得してしまったようである。


 それはマリアンヌも同じだったらしく、彼女は淡々とアステリアの質問に推測を返す。


「人手の話をしておりましたもの。多分、誰か信頼できる方にお声かけに行ったのではなくって?」


 そんなマリアンヌの推測に、ポテンティアが疑問を呈した。それも根本的な疑問を。


『いましたっけ?そんな方……』


 学院において、ワルツたちは所謂"浮いている状態"にあるのである。親しい友人と言える人物は、ミレニアとジャックの2人くらい。テレサに絞れば錬金魔法使いのフィンなども一応友人と言えたが、ワルツとは縁遠く……。彼女が声を掛けられるとすれば、ミレニアとジャックくらいのものだった。


 ただ、ミレニアとジャックに限定するなら、ワルツよりも親しいポテンティアが声を掛けた方が効果的だと言えたので……。やはり、皆、疑問に思えて仕方がなかったようである。


 ワルツは一体誰に声を掛けようとしているのか、と。


  ◇


 その頃、ワルツは、皆の予想を裏切って、学院長室前に来ていた。


   コンコンコン


 彼女は躊躇すること無く、学院長室の扉を叩く。


 すると、中から、返事が返ってきた。


『どうぞ』


 学院長のマグネアの声だ。


 その声が聞こえた後、ワルツは学院長室へと入るのだが……。


   ガチャッ……


「ちょっと良いかしら?学院長先生——いえ、むしろこう呼んだ方が良い?」


 そう口にした後のワルツの発言に、マグネアの目は皿のように見開くことになった。


「クラスメイトの——フィンさん」


この物語……実はA人がB人だった、という展開が多い気がしなくもないのじゃ。

コルと妾が、たまに入れ替わっておるとか……。

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