14.15-21 箍6
固まるテレサと、ニヤリと笑みを浮かべるワルツを前に、話について行けなかったルシアたちは、思わず首を傾げた。
そんな中、もう一人だけ、事情を理解した者がいたようである。
『あぁ、なるほど。お月様に工房を作ってしまおうというのですね?』
と、口にするのはポテンティアだ。機動装甲の製造に必要な大規模な設備と、ディスプレイに浮かぶ丸い物体。そしてテレサが口にした"月"という単語……。そこから導き出されるのは、ワルツが月に工房を作ろうとしているという事実。
ポテンティアのその発言で、ようやくルシアも理解したのか、「あぁ、なるほどね!」と言いながら、ポンと手を叩いていたようである。どうやら彼女にとって、ワルツが月に工房を作ろうとしているというのは、驚愕すべきことではなかったらしい。
結果、話に付いてけなかったのは、アステリアとマリアンヌの2人だけとなる。未だ、ワルツたちの力の全容を知らない彼女たちにとって、月に工房を作るなど、夢物語でしかなかったのだ。
そもそも、月が何なのか、彼女たちは理解出来ていなかった。彼女たちにとって空や月というのは、色の変わる大きなキャンバスでしかなく、宇宙に超重量の天体が浮かんでいて、彼女たちのいる惑星アニアの周りをグルグルと回っているなど、想像すら出来なかったのだ。
ゆえに、アステリアとマリアンヌの理解を置き去りにして、ワルツたちの会話は進む事になる。
「ああ、そうそう。最初に言っておくけど、これ、コルテックスたちには内緒ね?」
「「『えっ……』」」
「悪いけど、もしもコルテックスたちに話すって言うなら、すぐにミッドエデンに帰ってちょうだい。プロジェクトを進める上で、これだけは譲れないの」
そのワルツの発言に、ルシアたちは困惑した。ただそれは、コルテックスたちにワルツの事を話さない自信がなかったから、というわけではない。ワルツがコルテックスたちに対して秘密を作ろうとしていること自体に驚いてしまったのだ。
しかし、ルシアは、殆ど悩むこと無くワルツに返答する、
「もちろん、言わないよ?もしも聞かれそうになったら……その時は、テレサちゃんに任せて逃げるね!」
「えっ……」
どうやらテレサに選択肢は無いらしい。まぁ、もとより彼女の選択肢は一つしか無かったので、問題ではないのだが。
「なぜ妾がア嬢の尻拭いをせねばならぬのかは分からぬのじゃが、妾がワルツの事を裏切ることは無いのじゃ。もちろん、秘密にするのじゃ?」
ルシアとテレサが前向きな回答をする一方、ポテンティアは、かなり悩んでいるようだった。
『それは……コルテックス様方と、袂を分かつということでしょうか?』
ワルツはコルテックスたち——ひいてはミッドエデンと争うと言っているのか……。そんな疑問を抱きながらポテンティアがワルツに問いかけると、ワルツは迷うこと無く首を横に振る。
「いいえ?単に横やりを入れられたくないだけよ?これって、私個人のプライベートな問題でもあるし……」
プライベートな問題……。その言葉を聞いたポテンティアは、つい先日、ワルツがテンポと喧嘩をした際の出来事を思い出した。喧嘩のきっかけは、テンポがワルツの身長について触れたことが原因だったのである。機動装甲は、ワルツの身長を誤魔化す(?)一つの方法であり、弟妹たちに触れられたくない話題だというのは、ポテンティアにも何となく理解出来ていたのだ。
『……そういうことでしたら、僕も黙っておきます。ミッドエデンの方々と喧嘩をされる目的で情報を開示しないというのでしたら、反対するところですが、プライベートな問題というのでしたら、それを言いふらすつもりは一切ありません』
「ありがとう。ポテンティア」
ルシア、テレサ、そしてポテンティアと合意を得た後、ワルツはアステリアとマリアンヌに視線を向けた。
ただ、すぐには話し出さない。未だ大混乱中の彼女たちに、どう説明して良いものかとワルツ自身も悩んでいたのだ。月に工房を作るという話をルシアたちが理解出来たのは、事前知識があったからこそで、何も知らないアステリアたちに説明したところで、すぐに理解出来ないのは自明。彼女たちが理解出来るように説明するには、1から丁寧に説明する必要があった。
いや、下手をすれば、1から説明しても理解出来ない可能性すらあると言えた。話があまりに壮大だからだ。説明するのに数週間も掛けるなど、すぐに行動を始めたいワルツとしては本末転倒。ゆえに、ワルツは、アステリアとマリアンヌを、月面工房計画から外そうかとも考えたようだが——、
「私は——」
——ワルツが話し始める前に、アステリアが口を開いた。それも、彼女なりに覚悟を決めたような表情で。




