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14.15-20 箍5

 学院のカリキュラムを完全に無視したワルツによる言語学の授業——もとい国語の授業が終わった後。ワルツたち一行は、日課の図書館での予習をやらず、そのまま自宅へと戻った。ワルツには、予習などよりも優先してやらなくてはならない事があったのだ。


 ルシアたちはワルツが何をするために家に戻るのか、聞かされていなかったようである。それでもワルツのすることに興味があったのか、ワルツから離れて別行動をするのではなく、一緒に自宅へと帰ることにしたようだ。


 そして自宅に着いたわけだが、ワルツは学院の荷物をサッと片付けると、すぐに床にあった扉を開けて、地下にあった自宅のさらのその地下に行こうとする。余程、急ぎの用事があるらしい。


 そんな姉の後ろ姿に、ルシアが問いかけた。


「お、お姉ちゃん?」


 ルシアはただ姉の名前を呼んだだけである。それでも、ルシアの不安がワルツに伝わったのか、ワルツは足を止めて、妹の方を振り向いた。


「……一緒に来る?」


「えっ?良いの?」


「えぇ。どうせだし、みんなも一緒に付いてくると良いわ?」


 そう言って、地下に繋がる扉へと入っていくワルツ。その後ろをルシアはすぐに付いていき、テレサやアステリアなど、他の者たちもワルツの後を続いていく。


 ワルツが作った地下室に、同居人たちは入ったことがなかった。正確に言えば、地下室を作る際にルシアが関与していたので、ルシアだけは入ったことがあると言うべきか。しかし、その際は、荷物や家具と言えるものは何も無く、ただの倉庫といった様子の部屋だった。


 ところが、作成してからおよそ1ヶ月が経った今、様子は大きく変化していたようだ。電灯もランタンも無かったはずの部屋の中は、いまや四方の壁、天井、床に至るまで、全面にELパネルが張り付けられていて、影の無い明るい部屋と化していた上、地面には大量の配線が木の根の根のように張り巡らされていたのである。


 そして至る所に工作機械と思しき機械が置かれ、部屋の主がいない間もずっと動き続けていた。何を作っているのかは定かでないが、金属とも、陶器(セラミック)とも言えない、謎の物質を削ったり、電子部品と思しき部品を作っていたりと、この世界においては間違いなくオーバーテクノロジーと言える何かを作成していたようである。


 そんな光景を見て、アステリアとマリアンヌは、ぽかーん、と口を開けたまま固まっていた。目の前にあるものが、自分たちの理解が追いつかない何か、というところまでは分かるが、そんなものが普段寝泊まりしている場所の地下にあったことに驚いているらしい。


 ポテンティアはミッドエデンでも似たような光景を見たことがあったためか、『想像通りですねー』と苦笑していたようである。彼の場合、大量の分体たち(マイクロマシン)を使役しているので、部屋に入ろうと思えば、いつでも入れたはずだが、一応、気を配って、ワルツの許可が出るまでは、彼女の部屋に入らないことにしていたようである。


 一方、テレサは、酷く悔しそうな表情を浮かべていた。あるいは、羨ましげ、とも表現出来るかも知れない。彼女はワルツの部屋の中にあった機械が個人的に欲しかったのだ。モノづくりをするために必要なものが、そこには最低限、揃っていたのだから。


 そしてルシアは——、


「あぁ……そうなんだ……」


——部屋にあった機械や、その機械が造っているだろう部品を見て、納得したようにポツリと呟いた。


 そして姉の方を向いて、確認する。


「これって、お姉ちゃんのあの機械……機動装甲を造ってるんだね?」


 対するワルツは「はぁ」と深く溜息を吐きながら、肩を竦めて、こう返答した。


「えぇ、そのつもりだったんだけどね……」


「……えっ?」


「これは全然足りないのよ」


「これでも……足りないの?」


 部屋はかなり大きかった。高さこそそれほどないものの、横方向には体育館ほどの面積が広がっていた。そこに大量の機械が置かれているというのに、それでも機動装甲の製造には足りないらしい。


「ちなみにどのくらい?」


「……多分、レストフェン大公国の国土全部が必要になるくらい」


「それ……」


 無理ではないか……。ワルツのあまりに壮大すぎる返答に、ルシアは思わず否定しそうになる。


 が、どうやらワルツの話はまだ終わっていなかったらしい。


「いまのままなら、だけどね?」


「「「「『?』」」」」


「コルテックスたちが機動装甲を作り始めた以上、私も自重を止めようと思うのよ」


 そう言ってワルツは目の前にあった端末を操作して、空中に浮かぶディスプレイにとある物体を表示したのである。


 その丸いものが何なのか、すぐに理解出来なかったルシアたちは、皆、首を傾げたようである。そんな中で、最初に、その丸い物体の正体に気付いたのは、テレサだった。


「んまっ……まさか……月、じゃと?!」


 正体を言い当てたテレサに対し、ワルツは口角を上げた。

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