6中-07 雨の町並み-中編3
また、ボクっ娘シリウスの一人称が変わっておったので修正。
諸般の事情により、ワルツが犯行の証拠(?)を完全に隠蔽してから、デフテリー・ビクセンの第3王城へと戻ってきた後の話。
自分に対して何やら寂しそうな表情を見せてくる子どもたちを、無理やりにユキD(文部相)へと預けた後で、ワルツが来賓室まで戻ってくると・・・
・・・異常な冷気が部屋の扉から漏れ出している様子が、彼女の眼に入ってきた。
「んー、涼しいわねー」
部屋に入って開口一番、まるで朝の情報番組に表示されていた天気予報を眺めるようにして、ワルツは呟いた。
あるいは、機動装甲の温度計が-10度(摂氏)になっているのを確認しただけ、とも言えるだろうか。
「あ、おかえりなさいお姉ちゃん!」
既に日付は変わっていたが、普段通りにワンピース姿を身にまとった、全く寒くない様子のルシアが、ワルツに声を掛けてくる。
「ただいま。何?起きて待っててくれたの?」
「うん・・・それもあるんだけど・・・」
ルシアはそんな晴れない表情を浮かべた後、とある場所に視線を向けた。
ずーん・・・
部屋の一角に、物質の運動が限りなくゼロに近い状態で停止しているだろう領域が出来上がっていたのである・・・。
・・・要するに、来賓室の片隅で、ユキAが膝を抱えたまま、横になって無造作に転がっていたのだ。
そんな彼女の体型が大きくなり、妙にグラマラスになっているのは・・・やはり寒いからだろうか。
どうやらルシアは、ワルツが帰ってくることを待つこと以外にも、そんな妙な気配を醸し出すユキの存在が気になって眠れなかったらしい。
その他、
「ざぶい゛ー・・・ざぶい゛よぉ・・・」
・・・翼に羽毛の生えていないユリアが、ベッドの中でガタガタと震えていた。
一方、シルビアの方は、
「zzz・・・」
羽毛が生えている翼に包まれて、幸せそうに眠っていた。
どうやら、呼吸困難で生涯を終えることは無かったようである。
「ルシアは寒くないの?」
「うん。バングルをつけてるから」
そう言いながら、各種耐性効果がカンスト状態のエンチャントを施したバングルを持ち上げて見せるルシア。
ただ、その理屈で言うなら、同じくルシア製のバングルを付けているユリアも、寒くないはずである。
それでも寒いとすれば・・・ユリアは相当に寒がり、ということになるだろうか。
あるいは、ユリアのバングルだけが不良品である可能性も・・・いや、それは無いだろう。
「ま、いっか」
ワルツは細かいことを考えるのを止めた。
・・・というより、そもそもの原因を取り除くことが先決だと考えたのである。
「・・・あの・・・ユキ?」
雪女よろしく真っ青なオーラを纏いながら、横に倒れた体育座りの状態で、壁に向かって何やらブツブツとつぶやき続けているユキに、ワルツは恐る恐る声を掛ける・・・
「・・・」
が、返事は戻ってこない。
(・・・何をつぶやいているのかしら・・・?)
ワルツは、ユキの口元に耳を欹てるフリをしながら、高性能マイクロフォンで彼女の声を聞き取ってみた。
・・・すると、
「(お嫁に行けない、結婚できない、役立たずの魔王、役立たずの姉、料理下手・・・)」
・・・何やら呪詛を唱えていた。
恐らく、全くガイドとして活躍できなかった自分のことを呪っているのだろう。
(あ、あれー・・・なんか、私も急に胸が苦しく・・・っていうか、魔王なんだからお嫁に行けないのと、料理下手なの関係なくない?)
そんなユキの呪詛の大半が、どこか自分のことを言っているような気がして、心を抉られた気分になるワルツ。
だが、直ぐに頭を振って暗い気分を吹き飛ばした後、ユキを重力制御で浮かべながら、彼女の頬を引っ張った。
「ひゃい?!にゃにふりゅんへふは(何するんですか)?!」
「あんまり気を詰めた顔ばっかりしてると、顔に皴が残って、(本当に)シワシワのお婆ちゃんみたいになっちゃうわよ?」
「ふぇ?いわふぁらっほなにはひほいほほを(え?今、さらっと何か酷いことを)・・・〜〜〜〜!!」
そのまま、誤魔化すようにして、彼女の顔をもみくちゃにするワルツ。
その際、ユキの顔が・・・到底、言葉では表現できない状況になっていたが、おかげで彼女の心も少しは解れたようである。
ワルツが彼女の顔から手を離すと、ヒリヒリするためか、ユキは少し赤くなった頬をさすりながら、徐々に心の中を語り始めた。
「・・・気付いたらワルツ様がどこかに消えちゃってて、愛想付かして帰っちゃったのかと・・・」
しょんぼりしながら、呟くようにしてそんな言葉を口にするユキ。
(いやいや、仲間を置いて帰りたくなるほど嫌うとか、普通ありえないでしょ・・・)
と思いながらも、エンデルシア国王の顔を脳裏に浮かべるワルツ。
「・・・それに・・・気付いたら、どこかで見たことのあるお城が第1王城のあった場所にできていて・・・」
(あぁ、ルシアが新しく建てた、玄関ホールに転移魔法陣があるお城のことね・・・)
ワルツは、先ほど戻ってくる時にも通過したミッドエデン風王城を思い出す。
玄関に入ると即転移して、他の王城に飛ばされるというトンデモ仕様の城である。
恐らく、転移魔法陣の位置を移動させない限りは、使いものにならないだろう。
「それに・・・それに・・・!」
ブワッ・・・
何を思い出したのか・・・ユキの眼から大粒の涙が溢れ始めた。
「デートに・・・失敗しちゃ・・・ぐすっ・・・お嫁・・・行けな・・・ぐすっ」
(・・・貴女もなの・・・?)
と、ワルツは泣きじゃくるユキに対して、思わず呆れ気味の表情を浮かべる。
ともあれ、このままだと本題の話もできないので、とりあえず彼女を宥めることにした。
「デートかどうかは分からないけど・・・次の機会に、また案内してくれればいいと思うわ?」
「でも・・・ワルツ様・・・次来るかどうか・・・ぐすっ・・・」
「もちろん来るわよ?だって、カタリナとか、他の仲間達を連れて来てないし・・・」
そんなワルツの言葉に、涙と鼻水を垂らしたひどい顔のまま、ユキは明るい笑みを浮かべた。
「ほ、本当ですか?!」
「え?!え、えぇ・・・もちろんよ?」
そんなユキの表情に少々引きながらも、彼女の涙と鼻水を重力制御で拭き取るワルツ。
すると、
「絶対ですよ!約束ですよ?結婚式の準備をして待ってますから!」
本調子になったのか、ユキが暴走し始めた。
「ちょっと待って・・・どうしてそうなるわけ・・・?」
「えっ・・・」
「いや、急にそんな光の無い視線を向けられても困るんだけど・・・」
「・・・冗談です」
「冗談言ってるはずなのに、何でそんな泣きそうな表情を浮かべるのよ・・・」
そんな彼女を前に、誰か助けてー、と思わなくもないワルツであった。
・・・そんなやり取りを10分ほど繰り返した辺りで、ようやくユキの機嫌が元に戻る。
「お手数をお掛けしまして、申し訳ございません・・・」
「ううん・・・ぜ、全然、気にしてないわ・・・」
と、随分疲れた様子のワルツが、身体から漏れ出る冷気を止めたユキに対して返答する。
「それで、一体、どちらに行かれていたのですか?・・・もしかして、逢引・・・」
「いや、ちょっ・・・だから、その病んでるような視線をこっちに向けるの止めよう?ホント洒落にならないから・・・」
「冗談です」
「・・・それなら良いんだけど・・・。で、どこに行っていたかなんだけど・・・」
すると、それまで疲れていた表情を浮かべていたワルツの色が急に変わって、文字通り、真っ黒になる。
「・・・ごみ処理よ」
『えっ・・・』
突如として、黒い髪と、赤い瞳に変わったワルツに、驚愕の視線を向けるシルビア以外の3人。
「・・・本当に不甲斐無い話なんだけど・・・イブを誘拐されたわ」
『・・・え?』
最初こそワルツが何を言っているのか理解できない一同だったが、彼女の苦虫を噛み潰したような表情に、その言葉がその通りの意味しか持たないことを理解した。
「イブちゃんが、ゆ、誘拐・・・?」
「・・・?何で誘拐されたんでしょうか?」
疑問の声を上げるルシアとユリア。
対して、ユキは、
「・・・」
・・・まるで何かを知っているかのように、難しい表情を浮かべていた。
「・・・ユキ?知っていることがあるなら、教えてもらえないかしら?」
「いえ、知っているというほどのことでもないのですが、彼女、スカー・ビクセンが暴走した原因・・・かどうかは分かっていないですけど、最初に犠牲になった研究者の娘さんらしいです・・・」
「そうだったの・・・」
「実は、ボクも、今朝知ったばかりなのですよ・・・すみません・・・黙っていて・・・」
そう言って、目を伏せるユキ。
もしもこのことを口にしていたなら、ワルツがイブを突き放すような真似はしなかったのではないか、そして誘拐されることも無かったのではないか・・・。
彼女はそう考えて、頭を下げた。
「・・・貴女が謝る必要は無いわ。最初から、私の行動に変わりは無かったんだから・・・」
「そう言っていただけると幸いです・・・」
むしろ、ワルツがイブを突き放そうとした理由を理解していたからこそ、ユキはイブの素性を明かしても意味が無いと思い、黙っていたのである。
「それで・・・これからやることは分かっているわね?」
「はい。お任せ下さい」
ワルツの言葉にそう答えると、ユキは立ち上がった。
これから為すべきこと。
即ち、イブを襲った犯人が何者なのかを調べるために、本来自分が居るべき椅子へと戻ることにしたのである。
・・・そう、この国の最高権力を行使するために・・・。
その際、小声で・・・
「(あ、ワルツ様?ちょっと、彼女、借りてもいいですか?)」
毛布に包まったままのユリアに、チラッ、と視線を向けながら、小声でユキはワルツに言った。
「(・・・えぇ。元々は貴女の部下でしょ?)」
「(いえ、今はワルツ様の忠実な僕)・・・というわけでもなさそうですね。再教育が必要かと」
・・・途中から、小声で喋ることを止めるユキ。
そして彼女は、
「あの、ユリア様?ちょっと付いて来ていただけますでしょうか?」
ユリアに微笑み書けながらそう言った。
「え?情報収集?なら、私に任せ・・・」
「いえ、確かに情報収集をお任せしたいのですが・・・その前に、魔王さまが呼んでいるみたいですよ?」
「えっ?!いつシリウスさまと連絡を?!」
ガシッ!
暗黒微笑のまま、ユキの腕を掴むユキ。
「ひぃっ?!」
・・・その際、何やらユリアが身震いしたのは・・・恐らく、気のせいだろう。
「では、ワルツ様。ユリアを連れて行きますね」
「う、うん。なんか、地が出始めてるみたいだけど・・・お手柔らかにね・・・」
こうしてユリアは再教育・・・もとい、情報収集役として馬車馬のように働かされるために、連行されていったのである・・・。
えっと、ここからはテレサちゃんに代わって、私、ルシアがお送りします。
・・・何ですか?主さん?
テレサちゃんがどこに行ったか?
・・・分かんないです!
もしかしたら、私の作ったクッキーを食べて、お腹いっぱいになって眠っているかもしれません。
この前も朝からぐっすりと眠ってましたから。




