14.15-16 箍1
そして、次の日の朝。
今日も変わらぬ(?)日々が始まるはずだった。そう、そのはずだったのだ。
残り1週間弱ほどの時間で、学院周辺の大木を切り倒し、その大木を加工して、そして売り飛ばす……。その光景が、もうしばらく続くと、皆がそう考えていた。
ところが事態は変わる。とはいえ、学院長のマグネアが、中止を勧告したわけでもなければ、ワルツが木材の伐採を面倒くさがってやめることにしたわけでもない。
ウィィィィン……ガションッ!!
「はぁ?」
「「うはは!この乗り物、変形する!!」」
テレサが作った木材運搬車『マークツー』に異変が起こったのだ。各部位が予想の斜め上を行くような変形をして、人型のロボットに変わってしまったのだ。
当然、テレサがそのように作ったわけでも、彼女の協力者であるフィンが隠し機能として仕込んだわけでもない。誰かが超科学を使って、改造したのである。
いったいだれが……。テレサは、ほんの刹那の時間、考え込むが、答えに辿り着くのは容易——と言うよりも、改造を施すなどただ一人しか考えられなかった。
「コルか……」
昨日、ベアトリクスによって盗難された木材運搬車『マークツー』は、テレサがベアトリクスに誘拐(?)されている間、一時的にコルテックスたちの手元にあったのである。その際、コルテックス、あるいは彼女たちによって、マークツーは改造を施されたらしい。
変形前はどう見ても突貫工事で造り上げられた木材運搬車だった。ところが、変形すると、まるで印象は変わり、あたかも最初からそういった人型ロボットとして作られたかのようなデザインに変わってしまったのである。
五月蠅かった魔導エンジンには、排気音がほぼ無音になるような消音器が装着され、聞こえてくるのは、ロボットの動作音と、それを操る薬学科の双子の喜々とした笑い声のみ。その上、2本の大木を軽々と持ち上げられるようになっていて、輸送効率も2倍かそれ以上に上がってしまったのだから、テレサとしては、色々と言いたいことがあったようだ。
彼女はガックリと肩を落としながら、溜息を吐く。
「これではオーバーテクノロジーでしかないのじゃ……」
「レストフェン大公国にとっては、テレサちゃんの魔導エンジンもオーバーテクノロジーだと思うけどなぁ……」
ルシアが、すかさずツッコミを入れる。もはやテンプレだ。
一方、テンプレから外れて、無言を貫いていたのはワルツである。普段の彼女であれば、やれ技術の流出だ、やれ世界のバランスが崩れるだのと、騒ぎ立てていたはずが、今日はなぜかだんまり。変形して木材を運び始めたマークツーを見ても、上の空といった様子で、まったく意に介していないようだった。
そんなワルツの事が気になったのか、アステリアが問いかける。
「あの……ワルツ様?どうかされたのですか?」
対するワルツは、どこかボンヤリとした様子でアステリアの方を振り向いて、マークツーを見上げて……。そして再びアステリアの方を見て、彼女へと問いかけた。
「もしも……」
「……もしも?」
「もしも、この世界が大きく変わって、戦争が絶えない不安定な状態になったとしたら……アステリアは嫌よね?」
対するアステリアは、少し考え込んだ後でワルツに返答した。
「そのお話だけを聞くなら、嫌です。けど……それって、今のこの世界とどう違うのか、私には分からないです。例えば、レストフェン大公国も、幾度となく、エムリンザ帝国と戦火を交えていますし、他の国だって、ずっと平和だったことなんて無いと思います。私たちの知らない国では、今まさに戦争や争いといったことが繰り広げられているはずです。それとどう違うのでしょうか?」
「……あんまり変わんない……のかな?」
「えっと……それはどういう意味でしょう?」
アステリアはワルツに問いかけるものの、ワルツから返答が戻ってくることは無かった。彼女はマークツーを見上げたまま、目を細めて何かを考え込んでいる様子で……。口を閉ざしたまま、険しい表情を浮かべていたようだ。




