14.15-15 盗難15
夜も更け、テレサはようやくベアトリクスの抱き枕から解放された。終始、頭を撫で回されたり、頬ずりされたりと、酷い目に遭ったものの、最終的には髪に櫛を入れられるなどして、ミッドエデンに戻ってきた当初よりも、見た目は整っていたようである。……そう、見た目だけは。
「…………」げっそり
転移魔法陣を使ってレストフェン大公国に戻ってきたテレサは、精神的に摩耗してしまったのか、疲れ切ったサラリーマンのごとく目が死んでいて、親に怒られた小学生のように足取りはトボトボとおぼつかず……。今にも崩れ落ちてしまいそうな雰囲気すらあった。その様子は、儚げな少女、とは縁遠く、ゲッソリとしすぎた表情は、むしろ怪異と表現した方が適切だろう。呪われた動画から出てくる某女性のような雰囲気だ。
あまりに疲れ切っていたためか、帰宅した途端にテーブルに突っ伏したテレサを見て、アステリアやマリアンヌなどは心配していたようである。しかし、ルシアとワルツたちにとってはいつものことだったためか、2人に気にした様子は無く、ソファーに座り込むと、彼女たちは会話をし始めた。
「やっぱ、ダメかな……」
「えっ」
テレサの口癖のような言葉を漏らす姉を前に、ルシアは思わず耳を疑う。今のテレサが言うならまだしも、まさか姉からその言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。
「どうかしたの?何がダメなの?」
いったい何の話をしているのか……。ベアトリクスたちとの茶会に参加したがゆえに、姉の近くにいなかったルシアは、ワルツとテンポたちがどんな会話をしていたのか知らなかった。ゆえにルシアは姉に対して問いかけた訳だが、姉から帰ってきた言葉は、思いも寄らぬ内容だった。
「テンポとコルテックス……あと他の2人もそうかも知れないけれど、なぜかみんな、私に対して挑戦的なのよ。自分たちで機動装甲を作って、私の事を打倒する、って……」
「あぁ……テンポお姉ちゃんが乗ってた乗り物のことだね。お姉ちゃん、みんなに嫌われるような事でもしたんじゃない?」
「そんなつもりは……」
ない、とは言い切れなかったのか、ワルツはそこで言葉を止めた。身に覚えがあった上、実際に警告を受けたこともあったので、否定できなかったらしい。
ワルツが考える限り、弟妹たちの反感を買った理由は、皆のことを放置しすぎたことが原因としか思えなかった。方針を打ち出すならまだしも、「後は勝手にやってね」と言わんばかりに皆のことを放置した挙げ句、そのことに文句を言われても聞く耳持たず、改善もしなかったのである。
その結果が現状だった。機動装甲を失った姉に一泡吹かせてやろうと、弟妹たちが躍起になって、自身の機動装甲を作り始めてしまったのだ。なるべくしてなった結果だと言えた。
「……やっぱり、原因は私にあるわよね……」
「……そうなの?謝ったらどうかなぁ?」
「んー、なんていうか、謝ったらどうにかなる問題じゃなさそうなのよね……」
「……みんな怒ってるわけじゃないの?」
「さっき話した感じだと、怒ってるわけじゃなくて、みんな嬉しそうに私と争うことを望んでいる節があるのよ。てっきり、誰かに思考を書き換えられたのかと思って確認してみたけど、そんな感じはなくて……。本当にみんな、喜んで私の事を倒そうとしてる、っていうかんじなのよね……」
「ふーん……」
ルシアは考え込む。
そして彼女は思ったことをそのまま口にした。
「んー、多分だけど、みんな、お姉ちゃんに構って欲しいだけなんじゃないかなぁ?」
「えっ……いや、そりゃ流石に——」
「だって、本当にお姉ちゃんのことを嫌っているなら、きっと、話しかけてくることすらしないと思うもん。私なら可能な限り距離を取るかなぁ?でも、みんな、その逆で、お姉ちゃんに近付いてきてるみたいだし……」
「……私に……構って欲しい……?」
そんな事などありえるのだろうか……。ワルツはルシアの言葉を聞いて、静かに考え込むのであった。




