14.14-10 仕上げ10
ワルツとテンポの和解は、明確な謝罪があった訳ではなかったものの、無事に済んだようである。2人とも、最初から喧嘩をするつもりは無く、可能ならすぐにでも和解したかったのだ。
弟妹たちを放置していたワルツは、もう少し弟妹たちに注意を傾けるにようにし……。そしてワルツの身長をイジったテンポは、二度と、ワルツの身長について触れないことにしたようである。もちろん、前述の通り、2人の間でそういった取り決めが交わされたわけではない。無言の内の紳士協定、というやつである。
まぁ、それはさておき。もう一箇所では、未だ戦いが続いていた。
「あぁ、愛しいテレサ。さぁ、この胸に——」
「お断りするのじゃ」
テレサとベアトリクスの駆け引きである。とはいえ、攻撃——いや口撃を行っていたのはベアトリクスだけで、テレサは防戦一方だったようだが。
「そんな恥ずかしがらなくても——」
「いや、恥ずかしいのではなく、お断りすると言っておるのじゃ」
テレサは、ベアトリクスの言葉に対して間髪入れずに反論することで、両手を広げて今にも襲い掛かってきそうな(?)ベアトリクスのことを、どうにか既の所で阻止していた。もしも実際にベアトリクスが飛びかかってくるようなことがあれば、筋力に秀でた彼女から逃げる事はできず、テレサは為す術無く人形のように捕まってしまうことだろう。
そんな2人のやり取りを傍から見ていたマリアンヌたちは、同じ事を考えていたようだ。
「(そんなに嫌いなのなら、なぜ言霊魔法を使わないのですか?)」
テレサはベアトリクスに対し、言霊魔法を使えるはずだった。相手の思考や記憶を強制的に書き換える言霊魔法なら、二度とベアトリクスを近付かせないようにすることも不可能ではないはず……。しかし、今のテレサには、言霊魔法を使う気配は無く、彼女は迫り来るベアトリクスのことを、言葉だけでどうにか押し返そうとしていたようだ。それも、決して上手い言葉ではなく、拙い言葉で。
それはまるで、ベアトリクスのことを傷付けたくないかのようだった。本心では、ベアトリクスのことを嫌っているわけではなく、強制的な手段は選びたくないかのように……。
そんなテレサの対応を見ている内に、マリアンヌたちはこう思うようになっていった。
「(なるほど……。テレサ様は素直になれないのですわね。本当は、あの方のことが好きなのに、それを上手く表に出せない、と……)」
たまにそのような考えを持った人物がいる……。たしか"ツンデレ"と言っただろうか……。マリアンヌがそんな事を考えていると、ルシアがポツリと零した。
「テレサちゃん、頑張るなぁ……」
「「えっ?」」
マリアンヌとアステリアが思わず聞き返す。テレサが何を頑張ろうとしているのか、2人にはよく分からなかったのだ。自分の想いを表に出すことを頑張ろうとしているのか……。そんな見当違いのことを考えてしまう。
しかし、実際にはまったく違う理由で、テレサは頑張ろうとしていたようだ。そのことを薄々知っていたルシアは、2人へとこう返答した。
「テレサちゃん、言霊魔法を使えば、永久的にベアちゃんのことを遠ざけることが出来るはずなんだけど、それをしちゃうと歯止めが掛からなくなっちゃうと思っているから、敢えて使わないようにしてるみたい」
「「えっ」」
ルシアに言われて、2人とも初めて気付く。
「……確かに、テレサ様の魔法は強力過ぎて、使い方によっては、いくらでも他人を自分の好きなように操れてしまいますものね……」
「一旦、人の道から足を踏み外せば、二度と元には戻れない……。そのようなことを危惧されているのですか?」
「多分ね。だって、テレサちゃん、本気でベアちゃんのことが苦手みたいだし……」
テレサが尻尾を股に挟みながら後退している様子を眺めつつ、溜息を吐きながら、テレサとベアトリクスの言葉の応酬を観察するルシア。そんな彼女の尻尾が、何か面白いものでも見るかのように、ゆっくりゆらゆらと左右に振れていたのは、2人のやり取りを見て楽しんでいたからか。
そうこうしているうちに、和解したワルツとテンポ、それにコルテックスがやってきた。
虫『僕の出番がありませんねー。おっと、5月も今日で終わりですか……。まったく時間の流れというものは早いものです』




