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14.15-09 盗難9

 屋上を吹き抜ける風によって、テンポの機動装甲の残骸がカラカラと音を立てながら転がっていく。そんな残骸を挟んで向かい合って対峙していたのは、ワルツとテンポの姉妹。傍から見れば、一触即発な光景に見えていて……。事情を知らないコルテックスは、今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな姉妹の対峙に、危機感を感じていたようだ。


 だが、実際には、取っ組み合いの喧嘩が始まるわけではなく、単に2人共がコミュニケーションに難を抱えていたために、お互い、何と言えば良いのか分からず、立ちすくんでいただけだった。掛ける言葉が見つからないために、お互い見つめ合うだけ。一触即発とは無縁の、むしろ、デッドロック状態とも言える状態で、前にも後ろにも引けない状態に陥っているだけだった。


 しかし、そんな姉たちの背景など知らなかったコルテックスは、一人、焦っていたようである。たとえお互いに生身の姿で、機動装甲を使わずに取っ組み合いの喧嘩をするとしても、ワルツもテンポも、普通の人間とは比較にならないほどの力を持っているのである。2人共が本気になれば、王城代替施設の屋上は破壊され、地面に瓦礫が落ち、下にいる王都の人々が被害を被る可能性を否定できなかった。


 ゆえに、コルテックスは、2人の喧嘩(?)を止めようとする。


「だ、ダメです!」


 コルテックスは2人の間に割って入った。身体を張ってでも、2人の喧嘩を止めようとしたのだ。


 すると、ワルツもテンポも『なんだこいつ』と言わんばかりの視線をコルテックスに向けながら、同時に同じ言葉を口にした。


「邪魔よ。コルテックス」

「邪魔です。コルテックス」


 対するコルテックスは、今、ここで自分が退くと、姉たちの喧嘩が始まると思ったのか、退こうとはしない。


「じゃ、邪魔なのは分かっています!でも、私がここを退ければ、お二方は戻れない道を歩み始めることになるはずです!」


「「……は?」」


「えっ?」


 妙な空気がその場に流れ始める。いや、正しくは、コルテックス()妙な空気に囚われ始めた、と言うべきか。


「(……もしかして、お姉様方は喧嘩をしていたわけではない……?なのに私は、喧嘩をしていると勘違いして、割り込んでしまったというのですか〜?)」


 事態を何となく察したコルテックスは、ピタリと固まり、顔を赤らめた。自分の勘違いだったと、ここでようやく気付いたのだ。


 しかし、気付いたからと言って、退路は無かった。現状、何だかよく分からない妙な気配を出している姉たちに挟まれている状態。そんな状態で後ろに戻ろうものなら、何をしに来たのか、と思われてしまうのは確実。事情の説明をしてから退かなければ、ただの変人と言われても仕方のない行動だと言えた。……まぁ、変人というのは、強ち間違いではないのかも知れないが。


 とはいえ、自分の事情を説明できても、姉たちの事情が理解出来ていなかったコルテックスは、下手に口を開けなかったようである。自分の予想のどこまでが勘違いで、どこまでが正解なのか、判断が付けられなかったからだ。下手に戻れば、事態を悪化させてしまうかも知れない……。そう考えると、やはり彼女には、前にも後ろにも進む事が出来なかった。


 対するワルツたちは、前後に動いたり、口をパクパクと動かすなど、妙な行動を繰り返す妹の事を、訝しげに見つめていたようである。そこにいた妹は、見つめれば見つめるだけ、大量の冷や汗を噴水のごとく吹き出していた。普段はどちらかと言えば冷静沈着な妹が意味不明な行動を取っている様子は、姉たち2人にとって、少しばかり空気を和らげる効果があったらしく——、


「はぁ……」


——ワルツは溜めていた息を吐き出して、緊張を解くことに成功する。


 テンポの方も——、


「まったく……」


——と呆れた様子で、肩を竦めていたようだ。


 そして2人は同時に言った。


「「コルテックス」」


「ひゃ、ひゃいっ?!」


「ありがと」

「ありがとう」


「……え゛っ」


 姉たちから急に感謝されたコルテックスは、やはり事情が分からず、目を丸くして固まってしまったようだ。


ワルツとテンポは、犬猿の仲、というわけではないのじゃ。

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