14.15-08 盗難8
心を病んでしまった(?)ベアトリクスを前に、テレサが出来る事は何も無かった。そう、何も無かったのだ。直前にテンポの機動装甲を破壊する際、テレサは尻尾3本分の魔力をすべて使い切っていて、その上、ルシアが非協力的。逃げる事も、抗うこともできず……。
「では、テレサ?話したいことが山のようにありますから、一緒に参りましょう?」ひょいっ
「……も、もう、ダメなのじゃ……」げっそり
テレサは軽々とベアトリクスに持ち上げられて、その場から連れ去られていった。まぁ、幸いというべきか、2人だけで話し合うというわけではなく、ルシアの他、アステリアとマリアンヌ、そしてポテンティアも一緒に付いていったようだが。
その際、ワルツも、シレッと付いていこうとするが——、
「……お姉様?」
——テンポから逃げる事は出来なかった。回り込まれてしまったわけではないが、声を掛けられた以上、無視するわけにはいかなかったらしい。
結果、ワルツはその場に立ち止まる。かと言って、彼女からテンポに対し、言う言葉は無い。現状、2人は喧嘩をしている状態だが、ワルツの方から謝罪しようとは思えなかったのだ。
正しくは、謝罪すべきだろうか、とは悩んではいたようである。しかし、テンポに背の低さを馬鹿にされたことを許すことができず、また、ワルツ自身のプライドが、謝罪することを拒んでいたようだ。
ようするに、ワルツの我が儘だった。その見た目通り、彼女の精神はそれほど成熟しているとは言えず、自分の行動について、素直に非を認められなかったのだ。
「……何よ?」
ただ、ワルツは、前述の通り、非を認められなかったものの、自分が悪いということは認識していたためか、その場から逃げ出すようなことはしなかった。テンポたちが怒っているのは、妹や弟たちを放置して好き放題、自分のやりたいことをやっているせい。ワルツもそれが分かっていたのだ、弟妹に迷惑を掛けていることに、それとなく心を痛めてはいたのである。
だからこそ、彼女は逃げずに、テンポの指摘に耳を傾けることにしたのだ。自分の非を認められなくとも、弟妹であることまで否定するつもりはないのだから。
「…………」
「…………」
ビュォォォォ……
2人しかいない屋上を、強い風がながれていく。2人の間に言葉は無い。問いかけられた側のテンポも無言だ。
実は、テンポもまた、何を言えば良いのか分からなかったのである。彼女の性格は、見た目通りに、クールではあったものの、彼女は一つ、大きな問題を抱えていたのだ。
「(言いたいことはあるのですが……何と言えば良いのでしょう……)」
彼女もまた、姉と同じように、コミュニケーションに難を抱えていたのである。理由は単純明快。彼女のAIは、ワルツのAIを元に作られていたからだ。
簡単に例えるなら、ワルツの性格をただクールにしただけの存在。それがテンポだった。更に言うなら、ワルツの性格をより脳天気にした存在がコルテックスだ。まぁ、他の3人は置いておくとして……。元が所謂コミュ障のワルツに作られたテンポが、自分の気持ちをスラスラと口に出来る訳がなかったのである。
結果——、
「(なにこの無言……。私に何か言えって言うの?何を言えって言うのよ……)」
「(呼び止めたは良いですが、特に言うことは無いのですよね……。言ったところで反省する方だとも思えませんし、そもそも反省という言葉を理解しているか怪しいですし……)」
ビュォォォォ……
——2人の間に言葉は無く、ただひたすらの睨み合いが続いた。
と、そんな時。
ブゥン……
屋上に、風の音以外の音が響き渡る。転移魔法の音だ。
そして、その場に現れたのは——、
「ん〜っ!今日も一日、頑張って仕事をしたような気がしますぅ〜…………え゛っ」
——ストレラと一緒にレストフェン大公国に置いてきたコルテックスだった。どうやら、ストレラたちと別れて、ミッドエデンへと戻ってきたらしい。




