14.15-04 盗難4
「ど、どうしてテンポが犯人だと思ったの?」
ルシアが少し慌て気味に問いかける。姉妹喧嘩が悪化するのではないかと懸念しているらしい。ワルツとテンポが喧嘩をした場合、大事に発展するのは目に見えているからだ。
彼女の他、テンポの事をよく知っているテレサと、テンポの事を"母"と慕っているポテンティアも困惑気味だ。3人とも、転移魔法陣だけで、なぜ犯人がテンポだと断定できるのか、理由が分からなかったのだ。なお、テンポの事をよく知らないアステリアとマリアンヌは置いてけぼりである。
対するワルツは、目の前に銀色のインクを浮かべながら、推測を口にし始めた。
「転移魔法陣の転移先の座標が、私がテンポの事を送り返した先と同じ……つまり、ミッドエデンの飛行艇発着所だからよ?他に、やりそうな人を考えると、コルテックスとストレラと、あと一応アトラスがやった可能性も考えられるけれど、コルテックスに私たちの妨害をする理由は無いし、ストレラもそんな面倒臭いことをするとは思えないし、あとアトラスも私たちに構っている暇なんて無いでしょ。ってことは、消去法的にテンポしかいないもの。それにテンポなら、転移魔法陣を直接見たことがあるから、私と同じように再現することも出来るだろうし……」
と、理由を口にするワルツの言葉に、最初に質問したルシアは反論できなかった。姉の説明を聞く限り、その通りだと思えてならなかったのだ。
ただ、被害を被ったテレサとしては、やはり解せなかったようである。
「しかしなぜ、妾のマークツーを持っていったのじゃ?別にマークツーじゃなくて、ワルツ自身か、妾たちのことを転移させても良かったと思うのじゃが……」
という疑問に対し、そこにいたメンバーの中で、恐らく一番テンポのことを理解しているだろうポテンティアが、肩を竦めながらこう言った。
『母は恐らく、テレサ様の作品を転移させることが最適だと考えられたのでしょう。ワルツ様自身を転移させれば、それはそれで大げんかになりますし、ルシア様やテレサ様のどちらかを転移させれば、とんでもない大事になりますし……』
「「……?」」
『それに、各地に散らばっている僕を転移させる事は難しいし、皆さん、多分、僕のことを心配してくれないでしょうから、敢えて、テレサ様の作品を転移させたのでしょう。そうすれば、少なくとも、テレサ様は大慌てで作品を探されることになりますから』
「「「なるほど……」」」
『あの……今の話、あまり納得されたくないのですけど……』
誰も自分の事を心配してくれない、という言葉に納得した様子の3人を前に、ポテンティアは尚更、げんなりとした表情を浮かべた。少しは心配して欲しいと思っていたらしい。
それからポテンティアは続けて言った。
『まぁ、僕は慣れているので良いのですが、母も同じとは限りませんから、放置は良くないと思うのです。あの方はあのように見えて、意外と寂しがり屋なのですよ。所謂、ツンデレです』
「いや、ツンドラの間違えじゃ……」
優しく接したところで、デレるテンポの姿を想像出来なかったのか、ワルツは眉を顰めた。
しかし彼女は、口で否定しながらも、内心では悩んでいたようである。
「(テンポの事を転移させたのは私の方だから、悪いのは私なんだけど、でも最初に馬鹿にしてきたのは向こうだし……)」
どうにか、自分を正当化しようとするワルツだったものの、内心では後悔していた。自分の見た目や身長にコンプレックスを持っているとはいえ、それを指摘する妹のことを、考え無しに突き放すというのはどうなのか、と今更になって悩んでいたのだ。身長が低いことにコンプレックスを持っているのは——、
「……えっ……なぜ、こっちを見るのじゃ?な、なんだか恥ずかしいのじゃが……」
——某人物も同じで、ワルツに限った事ではないのである。しかし、その某人物は、ワルツほどコンプレックスを持っているわけではなく、自分よりも3歳ほど年下のルシアとどんぐりの背比べをしている有様。そんな彼女のことを見ていると、ワルツとしては自分の悩みが馬鹿らしく思えてきたらしい。
「……謝ろうかしら」
「えっ……ちょっ……なぜこちらを見て謝ろうと言い始めたのじゃ?!」
「まぁ、色々よ?色々」
某人物に生暖かい視線を向けた後。ワルツは浮かべていた銀色のインクを操って、転移魔法陣を完成させた。ミッドエデンの飛行艇発着場行きの転移魔法陣だ。




