14.14-47 仕上げ47
誤字を修正したのじゃ。
結果的に、この日の製材の輸送量は、大木1本分だけとなった。元々、1本分しか乾燥させていなかったことも理由だが——、
「くぅーーっ!肩が痛ぇ!」
「肩が痛いといいながら、脹ら脛を揉むな。紛らわしい……。まぁ、気分は分からんでもないが……」
「俺は、魔力がすっからかんで、これ以上、体力強化の魔法を使うのも無理だぜ……」
「奇遇だな?俺もだ」
——と言ったように、まず騎士科の学生たちが、その言葉通りに体力の限界を迎えていて、学院-公都間の1往復だけで、ヒィヒィと音を上げていたのだ。
その他——、
「ん゛ー、もう無理……」
「お疲れ……。みんなで協力して、ギリギリ魔力が足りたって、感じね」
「あの"乾燥炉"とかいう魔法陣、燃費が悪すぎなのよ……」
——魔法科の学生たちは木材を乾燥させるための魔法陣に魔力をつぎ込むので精根尽きており……。特別教室のメンバーを全体的に見て、これ以上の作業は難しそうだった。
例外的に、薬学科の双子の姉妹などは——、
「とりあえず、運ぶだけ運んじゃお?」
「まだまだ大木はなくならないしね」
——とテレサ製の重機を使って木材を運んでいたためか、疲れてはおらず、むしろ作業を楽しんでいたようである。
そして、今日だけ体験入学をしていたABC姉妹たちは、というと——、
「あの狐のお姉ちゃんを真似れば良かったです!」
「魔法を使えば軽々なの!」
「よゆー?」
——アステリアが爆発性の魔法を使って木材を運んでいる様子を見ていたためか、次々に"駅"へと運び込まれてくる大木を、アステリアの魔法を再現することで宙に浮かべて、乾燥炉の中へと搬入していたようである。どうやらABC姉妹は、アステリアよりも遙かに魔力量が多いらしい。しかも、3人で息を合わせて魔法を使っていたためか、初めて使う魔法だというのに、緻密に制御が出来ていて、壁などにぶつける事なく、木材を運んでいたようだ。
ABC姉妹たちが作業をしている間、彼女たちの主であるストレラは、やはり作業には関与することなく、遠巻きに観察していたようである。元々、彼女が学院にやってきたのは、自国に学院を作るにあたって、参考にさせてもらおうと考えていたからであり、皆と協力して何か作業をするためにやってきたわけではないからだ。
そんな彼女は、学院の生徒たちに紛れて、楽しそうに作業をするABC姉妹を見ながら、静かに考え込んでいた。
「(ポチたちをここに置いていく……っていうのは、時期尚早かしら?それとも私が過保護なだけ?)」
ABC姉妹の見た目は、学院の学生たちの中でも、群を抜いて幼いと言えた。一応、本当の姿を偽っていたワルツや、特別教室にいる謎の女学生フィンのように、特別に見た目が幼く見える者がいないわけではなかったものの、彼女たちの場合、幼いのはその見た目だけなのである。ABC姉妹の場合は、見た目も中身も幼かったので、精神年齢を考えれば、学院への入学に適した年齢だとは言い難かった。
それ以外にも、ストレラが、ABC姉妹のことを学院に入れようとは思えない理由が存在した。学院における学生の多様性——つまり、誰でもどんな種族でも受け入れるという学院側の懐の広さが、狭い、と感じられていたのだ。
実際、学院にいる人種は、98%ほどが所謂人間であり、獣人はアステリアとルシア、それにテレサの3人くらい。その他、人種を隠しているハイスピアやマリアンヌなどもいたが、基本的には人間のためだけの学院だと言えた。
そこに幼いABC姉妹を入学させるというのは適切と言えるのか……。ストレラは悩んでしまった、というわけだ。
「(ルシアちゃんやテレサのように、反対派の人間をねじ伏せるだけの力があると良いのだけれど、今のポチたちだけでは難しいだろうし……。それとも、学院に放り込めば、自ずと強くなるのかしら?……優柔不断ね、私)」
ストレラは自嘲気味に、フッと溜息を吐いた。当初、決めていた答えがあるのだから、その通りにすれば良い……。そんな結論に至ったようだ。
ちなみに彼女は、特別教室のメンバーからも見える位置に立っていて……。ストレラが彼らの事を観察している間、彼女は逆に学生たちからも観察されていたようである。
そのせいか、ニヒルな笑みを浮かべるストレラの様子を見た魔法科の学生たちは——、
「(やっぱり私たち、笑われているわよね……)」
「(あの子たちに比べたら、私たちの魔力、少ないもんね……)」
「(私たち、魔法使いに向いてないのかな……)」
——などと心配していたようだが、自信を失っていた学生たちの姿に、ストレラが気付いていたかどうかは不明である。




