14.14-45 仕上げ45
普段使わない強力な魔法を使った結果、アステリアは魔力切れを起こして、その場にへたり込み、動けなくなった。ただ、偶然にも、ストレラが飽和魔力水、もといマナ入りボトルをもっていて、それをもらうことが出来たようである。魔力切れの時はマナを飲めば、ある程度は回復できるのだ。その際、マナ入りボトルの授受に対して、押し問答があったようだが、結局、アステリアが折れて、ボトルを受け取ることになり——、
「で、では、いただきます…………ぶふぉっ?!」
——そのあまりのマナの濃さに、アステリアは思わずマナを口から吹き出して……。そしてその場に倒れて、ピクピクと痙攣を始めてしまう。
そんな彼女の様子を見ていたストレラは思う。
「(ちょっと濃すぎたかしら……。それともこの娘の魔力量が少なすぎて、受け止めきれなかったのも……)」
と思いつつ、ストレラはアステリアのことを持ち上げた。自分が原因でアステリアが意識を失ってしまったのは明らかだったので、責任を持って、彼女の事を安全な場所に運ぼうと考えたのだ。
そしてストレラは気付く。
「(重っ?!)」
アステリアが見た目以上に重かったのだ。例えるなら、ABC姉妹全員に抱きつかれたときのように。
「(この娘、さては人間じゃないわね?)」
変身魔法によって姿を変えた生き物は、一般的に、その体重までは変えることができないのである。ゆえに、ABC姉妹3人の合計体重は、元のケルベロスの体重と同じ。アステリアもまた、元の大狐と変わらない体重だったのだ。
「(なるほど……。あっちの姿が本来の姿ってことね)」
先日ストレラは、大狐の姿のアステリアに、襲撃者と間違われて踏み潰されたのである。そのことを思い出したストレラは、すぐにアステリアの正体に気付いたらしい。
「(姉さんたちは知っているのかしら?……なんかデリケートな話っぽいわね。触れないでおきましょ)」
ストレラは、今のところ、ワルツたちからアステリアの正体については聞いていなかった。ということは、アステリアがワルツたちに自身の正体を明かしていないか、ワルツたちがストレラにアステリアの正体を明かせない理由があるいかのどちらか。……あるいは、単に説明し忘れているという可能性も低くは無かったが、下手に探りを入れると藪蛇になる可能性を否定できなかった。
そんなわけで、ストレラは、余計な探りを入れずに、倒れたアステリアのことを保健室——があるかどうかは分からないが、学院へと運ぶことにしたようである。
「この娘、急に具合が悪くなったみたいだから、学院に運んでおくわね」
と口にするストレラを前に、特別教室の学生たちは唖然としていたようである。誰がどう見てもアステリアのことを昏倒させたのは、ストレラにしか見えなかったからだ。ストレラがアステリアに対して、何かを飲ませなければ、アステリアは昏倒しなかったのではないか……。そんな考えが皆の脳裏を過っていた。
が、ストレラは気にしない。
「ポテンティア。いるのでしょ?この娘の代わりは頼むわよ?」
『承知いたしました』
ストレラの呼びかけに応じて、ポテンティアが不意に現れる。皆が気付いた時には、既にそこにいた、といった様子で、急に現れたのだ。当然、魔法を使った痕跡はない。
皆がポテンティアの登場に驚いていると、さらにおかしな状況が発生する。ストレラがアステリアを抱えたまま、"駅"の壁を登り始めたのだ。それも、クライミングのように登っていくのではない。直角の壁を歩いて登り始めたのだ。
流石の魔法でも、重力に逆らって、壁を歩いて登るなどというものは一般的には存在しなかった。足の裏が地面にくっつくという魔法はあっても、直角に歩いて登るなど、筋力的に不可能。幻影魔法を使って幻で再現するくらいのものだ。
唯一の例外は、重力制御魔法くらいのものだが、ストレラからは、魔法を使っている気配は感じられず……。彼女がどうやって壁を歩いているのか、皆、まったく見当が付かない様子で、ぽかーんと口を開けていたようである。
その間も、地面では別の事態が生じていた。大木がゆっくりと、しかも静かに移動をしていたのだ。皆、ストレラの異常な行動に目を奪われていたせいで、大木が動いていることには気付いておらず……。ようやく気付いた時には——、
「「「……え゛っ」」」
——大木は乾燥炉の中へと収まった後だった。
事後になって気付いたのは、マリアンヌも同じだった。彼女も、ストレラの行動に驚いていたせいで、大木が移動していた事には気付いていなかったのだ。
ただ、彼女の場合は、大木が移動した原因については、すぐに察することができたようである。ポテンティアがいるということは、小さな虫たちも近くにいるということ。つまり——、
「ポテンティア様が運んだのですわね……」
『えぇ、まぁ。ストレラ様に任せられましたので』
——小さな虫たち、もといマイクロマシンたちが、皆で集まって大木を運んだ、ということに。




