14.14-44 仕上げ44
「では、ちょっとやってみます」
アステリアはそう言いながら、懐からワルツ製の杖(ただの木の棒)を取り出すと、目の前の大木へと意識を集中させた。直後——、
ドンッ!
——という大きな音を上げて、空気が爆ぜる。彼女の火魔法だ。
とはいえ、彼女の魔法は威力が低いのか、それとも温度が低いのか、あるいは効果の範囲が広く薄いタイプなのか……。彼女の魔法が大木を焦がすような事は無かった。しかし、大木の方向を確実に変えられていて、試しにやってみた割には、予想以上の結果になったようだ。
「悪く無さそうですね?」
「そうね。じゃぁ、お任せしてしまおうかしら?」
「はい!」
「ポチ様方もよろしくって?」
「ポチはいいです」
「ポチは見てるの!」
「やじうま?」
「……ですって?」
「わかりました。ではやってみます!」
マリアンヌたちに任されたアステリアは、連続して火魔法を行使し始めた。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!!
最初は断続的な爆発音だった彼女の火魔法は、段々とペースを上げて——、
ドドドドドッ……!
——という音に変わり……。更に加速して——、
ドゴォォォォッ!!
——という連続音へと変わる。
ここまで来ればもはや別の魔法だ。まるでロケットエンジンのようだったとも言えた。連続した爆発が大木を包み込み、もはやストレラの作った車輪すら無視して、大木を宙に浮かせるほどの推力を生むほどだ。
アステリア自身も、最初は、精々、大木の方向を変えるくらいで留めようとしていたようだが、魔法を使っている内に段々と楽しくなってきたのか、行動がエスカレートしていったようである。気付くと、大木は完全に宙を浮いていて、ルシアたちが重力を操って大木を浮かせていたときのように、自由自在に大木を運べるようになっていたようである。
しかし——、
ズドォォォォン!!
——もう少しで乾燥炉の中に入れられるという所まで大木を移動させたところで、浮かせていた大木を地面に落としてしまう。そして、その場に響き渡ったのは——、
「ぜぇはぁぜぇはぁ……」
——という、アステリアの荒い息づかいだった。どうやら、魔力が限界を迎えたらしい。
そんなアステリアに、マリアンヌが声を掛けた。
「思ったよりもずっとすごかったですわよ?アステリアさん」
ポチたちも、目を丸くして驚いていたようだ。
「あんな大きなものを浮かべられるなんてすごいです!」
「ルシア様みたいなの!」
「すごい音だった?」
対するアステリアは、皆に褒められたというのに、しかし、その表情は厳しい。
「……もう少し……もう少しで、部屋の中に……運び込めたのに……」ぜぇはぁ
彼女の中にあった目標は、いつの間にか変わっていて、大木の方向を変える事ではなく、乾燥炉の中に大木を運び入れることに変わっていた。それほどまでに、アステリアの魔法は、彼女が当初思っていたよりも、遙かにうまくいっていたのだ。
ところが、魔力量が追いつかず、中途半端に終わり、悔しい思いをしていたらしい。これで魔力量さえあれば、彼女は彼女だけの力で、乾燥炉の中に大木を運び入れることができたのである。それができればワルツたちから褒められたはず……。
アステリアがそんなことを考えていると察したのか、マリアンヌが肩を竦めながら、苦言を呈した。
「アステリアさんは、やはり気を張りすぎですわ?ここには私たちがいるのですもの。木材の方向さえ変えてくだされば、搬入は皆で協力してやれば良いのですから、すべてを自分だけでやる必要はないのですもの。もしも、ワルツ様方の評価を気にされているのであれば、尚更、皆で協力して大木を運んだ、という結果を出すべきではなくって?」
と、マリアンヌが指摘すると、アステリアは深く溜息を吐いた。
「……はい。次回からは気を付けます……」
今回はワンマンプレイが問題で、目的を達成し損ねたのである。アステリアはそのことを自覚したのか、素直に謝罪の言葉を口にした。
なお、その様子をストレラは少し離れた場所から眺めていたわけだが——、
「……なんだ、十分、化け物じゃない」
——などと彼女が口にしていた言葉を聞いた者は、誰もいなかったようだ。




