14.14-43 仕上げ43
ストレラが作った車輪だけの台車によって、到底運べないと思われていた大木は、たった5人で運べるようになっていた。リフトから下ろされた大木の下に、台車を置いておけば、あとは皆で押すだけで移動が出来たのだ。しかも、地面はルシアが光魔法で融解させたときのままだったので、ツルツルな状態。引っ掛かる場所は特になく、ただ押すだけであれば、誰でも移動させられるくらいの軽さだった。
ただ、実際には、そう簡単な話ではない。前後の車軸の距離が長い場合、方向転換は極めて大変だからだ。長いトラックが狭い場所でUターンするようなものだ。
しかも、ステアリング機能などというハイテクな装置は、ストレラの台車には付けられていないのである。ゆえに——、
「「「「「せぇのっ!」」」」」
ゴゴゴゴゴゴ……!
アステリア、マリアンヌ、それにABC姉妹は、5人で大木が乗った車輪を横方向に押して、方向転換をすることにしたようだ。運悪く、乾燥炉の入り口と、大木の角度は直角に近い状態。大木を押すこと自体は楽でも、方向転換はかなりの力仕事になっていたようだ。
その姿を見ていたストレラは、内心悩んでいたようである。台車を作るということ自体、想定していなかった"サービス"だが、ステアリング機能まで実装すべきか判断が付けられなかったのだ。
やりすぎれば、学生たちの創意工夫の機会を奪うことになりかねず、授業としての意味を失いかねなかった。かといって放置すれば、その内、車輪が壊れてしまうのは明らか。真っ直ぐに引っ張ることだけを考えて作った車輪だったので、何トンもある大木を何度も横に引きずるようなことをすれば、車輪だけでなく、地面も傷つき、作業性が悪化してしまうのは目に見えていた。
「(うーん……姉さんはみんなに、どこまでさせるつもりで、この施設を作ったのかしら?まぁ、何も考えていない、っていうのが答えなのでしょうねぇ……)」
何かしら授業の意図があってのことではなく、単に細かい事を考えなかった結果なのだろう……。自分たちも度々ワルツから放置された経験のあるストレラは、そんな事実に気付き、内心で溜息を吐いたようだ。
それから、ストレラが車輪を改良して、ステアリング機能も追加しようか、などと考えた時の事だった。
「これ、横に移動させるのが大変なので、試してみたいことがあるのですがよろしいですか?」
アステリアが不意にそんな事を口にし始めたのである。
「「「試してみたいこと?」」」
「何ですの?」
ABC姉妹とマリアンヌが、アステリアに対して問いかける。
するとアステリアは、トンデモないことを言い出した。
「これ、私の魔法で吹き飛ばせば良いんじゃないか、って思ったんですけど、どうでしょう?」
「「「「え゛っ」」」」
ABC姉妹とマリアンヌの声が重なる。彼女たちの頭の中では、爆発性の魔法によって、木っ端微塵に吹き飛ぶ大木の姿が浮かんできていたようだ。どこかの狐娘のせいである。なお、当然のことだが、アステリアの魔法にそこまでの出力は無い。
そう、そこまでの出力が無いからこそ、彼女は魔法で大木を動かせるのではないかと考えたのだ。
「皆さん、多分、勘違いされていると思いますけれど、私の魔法はルシア様ほどの強さはありませんから、魔法を使っても、丸太の表面を焦がすのが精一杯です。でも、反動は大きいので、この大きな丸太でも動かせると思うのですよ」
アステリアがそう説明すると、彼女の魔法を知っていたマリアンヌが、「なるほど」と相づちを打つ。
「確かに、あなたの魔法なら、移動出来るかも知れませんわね。試しにやってみます?もちろん、危険かも知れませんから、皆さん離れた上で、ですけれど」
マリアンヌは、アステリアが魔法を使っているところを何度か見かけた事があった。その際のアステリアの魔法は、地面を吹き飛ばすほどの力は無く、爆風が吹き荒れる程度のものでしかなかった。それを大木の側でやれば、皆で大木を押すよりも簡単に大木の方向を変えられるのではないか……。マリアンヌも、アステリアのアイディアに納得した様子だった。
納得できなかったのは、話を聞いていたストレラだ。人の力で大木を押すならまだしも、どの程度の出力が出るのかも分からない魔法を使って、大木を横から押すような真似をすれば、車輪が壊れてしまう可能性がかなり高くなってしまうからだ。
かといって、皆の作業に口を出すのもどうかと思ったのか……。ストレラは眉を顰めながらも、口出しするのはやめておくことにしたようだ。壊れたときは、ステアリング機能のついた車輪でも作ってやればいい……。そんな事を考えたらしい。
しかし、話は、彼女が想像していたものとは異なり、斜め上の方向へと進むことになる。




