14.14-42 仕上げ42
「私は————りたい」
アステリアは何かを呟いた。しかし、その言葉がマリアンヌたちの耳に入ることは無い。"駅"の上の方から声が響いてきたからだ。新たな大木を運び入れる準備が出来たので搬入するぞ、という呼びかけだ。
ゆえに、アステリアの声は、極めて耳の良かった人物にしか聞こえなかったようである。その人物は、アステリアの言葉を聞いて、まるで耳を疑わんばかりに目を見開いていたようだが、その後で彼女は特に行動にでるわけでもなく、ただただ苦笑を浮かべるだけで……。その発言を口にしたアステリアの事を静観することにしたようである。
「あら?次の荷物が降りてくるのは良いのですけれど、今度はどうやって部屋の中に運び入れるかを考えないといけませんわね……」
頭の上に広がる空の方から、リフトで下ろされてくる巨大な丸太を見上げながら、マリアンヌは肩を竦めた。つい先ほどまで、荷物の搬出の方法を考えていたというのに、今度は搬入なのである。木材が軽くなっていたがゆえに搬出はどうにかなったが、重いままの丸太を運ぶというのは、流石に学生たちだけでできるようなことではなく……。マリアンヌたちが困ってしまうのも道理だと言えた。
そんな中、事の成り行きを伺っていた人物が、徐に動く。
「まったく、姉さんときたら、細かいところまでちゃんと考えてあげてないんだから……」
そう口にしたのはストレラだ。彼女はアステリアたちの所までやって来ると、地面に手を翳した。
すると、その瞬間、地面が赤熱して溶けて、直径1mほどの柱のようなものがニョキニョキと生えてくる。そんなものが人の身長くらいにまで伸びると、そこで熱を失い、赤い色を失った。ストレラは、そんな謎の物体を2つほど作成した後で、その柱のことを、ちょいっ、と手で押した。すると柱は——、
パキン……
——とガラスの棒が折れるような音を立てながら急速に曲がっていき、そして——、
ズドォォォォン!!
——と2本同時に地面に倒れてしまった。
それは金属の車輪だった。材質は不明だ。その辺の地面を溶かして造り上げた適当な車輪なので、純粋な鉄というわけではないのだろう。それでも、重い物を載せて運べるようなギミックが取り付けられているようで、2対の車輪を丸太の下に置いておけば、簡単に巨大な丸太を運べそうではあった。
そんな道具を一瞬で造り上げてしまったストレラの手腕を前に、アステリアは言葉を失い、マリアンヌも目をパチパチと瞬かせる。ABC姉妹だけは——、
「さすがはストレラ様です」
「さすがはストレラ様なの」
「さすが、ストレラ様?」
——と喜んでいたようだが、彼女たちが驚いていないのは、主たるストレラの行動になれているからだろう。
「ほら、早く車輪を移動させないと、丸太が降りてくるわよ?一旦、下ろしてしまったら、車輪を下に置けなくなるんじゃない?」
リフトに吊り下げられてユラユラと降りてくる木材を見上げながら、ストレラはそう口にした。
すると、アステリアとマリアンヌは、ハッ、と我に返り、車輪に手を掛け——、
「うっ……重……あっ、こう、転がすんですね!」
「あぁ、なるほど。この車輪を丸太の前と後ろに置いて押せば良いのですわね」
——と、すぐに使い方を理解したらしく、各々、車輪を置くべき場所へと移動を始めた。
そんな2人の内、アステリアの方にだけ聞こえるような声で、ストレラは言った。
「……貴女はなれるのかしら?貴女が目指すものに。"この道"はそう平坦な道ではないわよ?鉄道みたいなレールも無いしね」
ストレラのその言葉に、アステリアはピタリと足を止めるが、すぐにまた移動を始めた。そしてアステリアは、移動しながら、こう口にしたのである。
「諦めません。私の事をどん底から救ってくれたワルツ様に対する恩返しなのですから」
対するストレラは、ふふっ、と笑みを浮かべながらアステリアを見送った。
「ふーん。中々に面白い娘じゃない。どうして、姉さんの周りには、変わった人たちばかりが集まるのかしらね……。化け物になりたい、だなんて……」
そう口にするストレラは、なぜかとても嬉しげだったようである。




